抗がん剤の味覚障害はいつまで続く?──原因・対処法と食事の工夫

この記事の要点

  • 抗がん剤の味覚障害とは:抗がん剤が味を感じる味蕾(みらい)細胞にダメージを与えることで起こる症状です。味蕾は約10〜14日で生まれ変わるため影響を受けやすく、亜鉛の欠乏と神経毒性という二つの仕組みで生じます
  • 味覚障害には主に3つのパターンがあります。約3割の方が経験する鉄や銅のような「金属味」、肉や魚で強く感じる「苦味の増強」、何を食べても味がしない「無味」です
  • いつまで続く?:味蕾細胞の再生能力は高く、多くの方は治療終了後3〜6ヶ月で以前に近い味覚に戻ります。神経毒性が強い薬剤では半年以上かかることもあり、回復には個人差があります
  • 治療の時期で食事を工夫します。吐き気が強い時期は冷たくのど越しのよいものを少量ずつ、白血球が下がる投与後7〜14日は加熱した食事で衛生に注意、回復期はタンパク質を中心に栄養を蓄えます
  • 治し方・対処法:亜鉛を含む食品、食前のうがい・口腔ケア、だしのうま味や味付けの工夫、金属味には金属以外の食器など、パターン別の対策で症状を和らげられます

抗がん剤治療中に「食べ物が金属のような味がする」「何を食べても味がしない」と感じる味覚障害は、乳がんの化学療法がんの治療のために、抗がん剤という薬を使って全身に作用させる治療法です。手術や放射線治療とは異なり、薬によってがん細胞の増殖を抑えたり死滅させたりします。を受ける患者さんの多くが経験する、頻度の高い副作用です。

この記事では、味覚障害が起こる仕組み、「いつまで続くのか」という回復の見通し、治し方・対処法、そして治療の時期ごとの食事の工夫まで、臨床の現場でお伝えしている内容を体系的にまとめました。

目次

抗がん剤で味覚障害が起こる仕組み

味蕾細胞への影響

抗がん剤は、活発に分裂する細胞を標的にして作用します。味蕾舌の表面にある小さな突起の中にある、味を感じる細胞の集まりです。甘い、塩辛い、酸っぱい、苦いなどの味を脳に伝える役割を担っています。(みらい)の細胞もおよそ10〜14日という短いサイクルで生まれ変わっているため、抗がん剤の影響を受けやすいのです。

味覚障害が起こるメカニズムは、大きく二つあります。

- 亜鉛の欠乏体内の亜鉛という栄養素が不足した状態です。亜鉛は味蕾細胞の健康を保つのに必要で、不足するとしっかり味を感じられなくなることがあります。: 多くの抗がん剤は体内の亜鉛代謝に影響を及ぼします。亜鉛が不足すると味蕾細胞の正常な再生新しい細胞が生まれ、古い細胞と入れ替わることです。味蕾細胞は約10~14日のサイクルで再生していますが、抗がん剤の影響を受けるとこのプロセスが妨げられます。が妨げられます
- 神経毒性薬や物質が神経にダメージを与えてしまうことです。抗がん剤の神経毒性により、味覚や手足の感覚が鈍くなるなどの症状が起こることがあります。: パクリタキセル抗がん剤の一種で、タキサン系という種類に分類されます。がん細胞が増殖するのを防ぐ効果がありますが、神経へのダメージという副作用が出やすい特徴があります。(タキサン系)やカルボプラチン抗がん剤の一種で、プラチナ系という種類に分類されます。がん細胞の増殖を抑える効果がありますが、神経障害や聴覚障害などの副作用が出る可能性があります。(プラチナ系)などの薬剤では、味覚情報を脳に伝える神経そのものがダメージを受けることがあります

この二つが単独あるいは複合的に作用して、さまざまなパターンの味覚障害が生じます。

よくある3つの味覚障害のパターン

患者さんが経験する味覚障害は、大きく三つに分けられます。
最も多いのが「金属味口の中に鉄やアルミニウムなどの金属のような味が感じられる状態です。化学療法の副作用として起こりやすく、食事をおいしく感じられなくなることがあります。」で、口の中に常に鉄や銅のような味が広がると訴える方が全体の約3割にのぼります。
次に多いのが「苦味の増強」で、特に肉や魚などタンパク質肉、魚、卵、豆類などに含まれ、体の筋肉や血液、免疫細胞など様々な細胞を作るために必要な栄養素です。治療中の体力回復には、質の良いタンパク質をしっかり摂ることが大切です。を含む食品を口にした時に強い苦味を感じるパターンです。
三つ目は「無味」、つまり何を食べても味がしないという状態で、食事そのものへの意欲を大きく損なう原因になります。

抗がん剤の味覚障害はいつまで続く?

味蕾細胞はおよそ10〜14日周期で生まれ変わるため、治療中の味覚障害は投与サイクルに合わせて強弱の波が出るのが一般的です。投与後数日〜2週間ごろに最も強く感じ、次の投与までに少し楽になる、という経過をたどる方が多くいらっしゃいます。

味蕾細胞の再生能力は高く、治療が終了すれば多くの方で味覚は回復します。一般的には治療終了後3〜6ヶ月で以前の味覚に近い状態に戻ります。ただし、神経毒性が強い薬剤を使用した場合は回復に半年以上かかることもあります。回復の速さには個人差がありますので、焦らずに経過を見ていただきたいと思います。

味覚障害の治し方・対処法

味覚障害そのものを直ちに治す特効薬は残念ながらありませんが、症状を和らげ、食事を続けやすくする方法はいくつもあります。パターン別に、臨床でお勧めしている対処法をまとめます。

基本の対策:
- 亜鉛を多く含む食品(牡蠣、牛肉、卵、大豆製品など)を意識して摂る。亜鉛不足が疑われる場合は、血液検査のうえで亜鉛製剤が処方されることもあります
- 食前に水やレモン水でうがいをして口の中を潤す。口腔ケアで口の中を清潔に保つと、味を感じやすくなります

パターン別の工夫:
- 金属味: 金属製のスプーンやフォークを避け、プラスチックや木製の食器に変えてみる
- 苦味の増強: 肉や魚は下味・マリネ・香味野菜で苦味を和らげる。卵・豆腐・乳製品でタンパク質を代替するのも一つの方法です
- 無味: だしのうま味、香り、食感を活かす。治療中は味付けをふだんよりやや濃いめにしても構いません

こんなときは主治医に相談を

次のような場合は、我慢せずに主治医や薬剤師、栄養サポートチームに相談してください。亜鉛の検査や薬の調整など、対応できることがあります。

- 食事量が大きく減り、体重の減少が続いている
- 口内炎や口の痛み、ドライマウス(口の乾燥)を伴っている
- 治療終了後、半年以上たっても回復の兆しがない

抗がん剤治療中の食事時期別の食べ方の工夫抗がん剤治療中の食事

治療の時期に合わせた食事戦略

化学療法は一定の周期で繰り返されるため、体調には波があります。この波を理解し、時期ごとにアプローチを変えることが大切です。

大まかに分けると、投与当日から数日間は吐き気が強く出る場合がありますが、その際は冷たくのど越しのよいものを少量ずつ食べるのが基本です。投与後7〜14日目は白血球が最も低下する時期であることが多く、加熱した料理を優先的にとっていただき、食品衛生への注意が必要です。そして回復期(次のサイクルまで)は体調が安定してくるため、タンパク質を中心に栄養を蓄える大切な期間になります。

投与当日〜数日後(嘔気がつらい時期)

現在は制吐薬吐き気を止めたり予防したりする薬です。化学療法の副作用として起こる吐き気や嘔吐に対して、治療の前に使用することで症状を軽くする効果があります。(吐き気止め)の進歩により強い嘔吐実際に吐くことを指します。吐き気よりも症状が進んだ状態で、化学療法の副作用として起こることがあります。現在はより良い吐き気止めが開発されているため、以前ほど強い症状は減ってきています。は減りましたが、食欲が大幅に落ちる方は少なくありません。以下の食材と工夫の方法を参考にしてみてください。

食べやすいもの:
- ヨーグルト、ゼリー、プリン
- 冷やした果物(バナナ、みかん、りんご)
- 冷製のスープ、冷やし茶碗蒸し
- 素麺、冷やしうどん
- おにぎり(冷めた状態で)

工夫のポイント:
- 温かい食事は香りが立ちやすく、嘔気吐き気のことです。気持ち悪さを感じる状態で、化学療法の代表的な副作用の一つです。食事がしづらくなる原因になるため、適切な対処が大切です。を誘発しやすいため、あえて冷ましてから食べる
- 少量ずつ、回数を分けて口にする(1日5〜6回に分割)
- 制吐薬は食事の30分〜1時間前に服用すると効果のタイミングが合いやすい

投与後7〜14日目(白血球低下期)

白血球、特に好中球が減少白血球の中でも、特に細菌と戦う役割を担う好中球という細胞が減った状態です。これが減ると感染症のリスクが大きく高まるため、加熱した食事などで感染予防が重要になります。すると、普段は問題にならない細菌にも感染しやすくなります。この時期はしっかりと加熱した食事をとることが大切です。具体的な注意点は連載記事の食品衛生の項目で詳しくお伝えします。

食欲が戻りつつある方も多い時期ですので、衛生面に気をつけながら、しっかり加熱した食事を摂りましょう。

回復期

次の投与サイクルまでの期間は、体調が安定し食欲も戻りやすい時期です。元気を取り戻すこの時期に意識したいことは以下の通りです
- タンパク質を積極的に摂る(肉・魚・卵・大豆製品・乳製品)
- 一回の食事で無理に大量に食べる必要はない
- 間食にチーズ、ナッツ、ヨーグルトを取り入れる
- 一日を通して少しずつタンパク質を補給する

前編では、味覚障害がなぜ起こるのか、いつまで続くのか、その対処法、そして時期に合わせた食事の選び方についてお伝えしました。連載記事の2回目では、実際の食事場面で役立つ具体的な工夫をご紹介します。毎日の食事をより楽しく、食べやすくするためのアイデアをぜひご参考ください。

参考文献・出典
  1. 日本乳癌学会『患者さんのための乳がん診療ガイドライン2023年版』 jbcs.xsrv.jp
  2. 国立がん研究センター がん情報サービス「薬物療法」 ganjoho.jp

※ 本記事は上記の公的機関・学会等の情報をもとに、慶應義塾大学医学部 乳腺外科 林田哲 教授が監修しています。最終確認:2026-07-10

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