からだのケア
前編でウィッグの選び方や頭皮トラブルの予防についてお伝えしましたが、治療が進むにつれ、毎日のケアがより一層大切になります。敏感になった頭皮をいたわりながら、清潔さを保つことは、快適さと心身の健康につながります。ここからは、脱毛期間中の実践的なヘアケアとスキンケア、そして社会生活を営む上でのサポート方法についてご一緒に考えていきましょう。
脱毛期間中の頭皮ケアとシャンプー選び
髪が抜けている期間中も頭皮は皮脂や汗を分泌していますから、洗浄は欠かせません。ただし、脱毛で露出した頭皮はとてもデリケートですので、ゴシゴシこするのは禁物です。ぬるめのお湯でまず頭皮全体を十分に濡らし、低刺激製品が肌や頭皮に与える刺激が少ないことです。敏感になった肌にはダメージを最小限に抑えた製品を選ぶことが重要です。のシャンプーを手のひらで泡立ててから、指の腹で円を描くようにそっと洗ってください。すすぎは念入りに行い、シャンプー成分が残らないようにしましょう。
シャンプー剤の選び方ですが、アミノ酸系の洗浄成分シャンプーに含まれる洗浄成分の一種で、肌や頭皮への刺激が少なく優しいのが特徴です。通常のシャンプーより低刺激なため、敏感になった頭皮ケアに適しています。を使ったものや、「敏感肌用肌が敏感な状態にある人向けに開発された製品です。刺激の強い成分を避け、肌トラブルが起きやすい人でも安心して使えるように配慮して作られています。」「赤ちゃん用」と表示されている製品が比較的穏やかです。香料や着色料が含まれていないものを選ぶと、頭皮への余計な刺激を減らせます。洗い上がりにタオルで拭くときも、こすらずにポンポンと押さえるように水分を取るよう心がけてください。冬場は頭皮が乾燥しやすいので、無香料の保湿ローションを薄く塗るのも効果的です。

帽子やスカーフで外出をもっと自由に
ウィッグ以外にも、帽子やスカーフは外出時の強い味方になります。最近は「ケア帽子」や「医療用バンダナ治療中の脱毛を目立たなくするために設計されたバンダナです。通常のバンダナより頭部をしっかり覆える形状になっており、快適さと見た目の両立を実現しています。」として、脱毛中の方が使いやすいデザインの製品がたくさん出ています。つばの広い帽子は紫外線太陽光に含まれる電磁波の一種で、肌に当たるとダメージを与えます。毛髪が抜けて露出した頭皮は保護機能が低下しているため、帽子などで紫外線から守る必要があります。から無防備な頭皮を守ってくれるという実用的なメリットもありますね。小林麻央さんが闘病中におしゃれな帽子をブログで披露されていたのは、非常に記憶に残っています。
実際に多くの患者さんがおっしゃるのは、「帽子をかぶること自体は抵抗がなかったけれど、室内で帽子を取るべき場面にどう対応するかが不安だった」ということです。レストランや会議室などで帽子を脱ぐかどうか迷ったとき、スカーフを帽子の下に巻いておくと、帽子を取ってもスカーフが頭部をカバーしてくれるので安心感が増します。また、スカーフの巻き方にはターバン風やリボン風などさまざまなバリエーションがあり、Youtube動画などで学ぶこともできます。おしゃれの幅が広がると、外出が苦痛ではなくなったという声も少なくありません。

眉毛やまつげが抜けたときの対処法
意外と見落としがちですが、抗がん剤がん細胞の増殖を止めたり、がん細胞を死滅させたりするために使う薬の総称です。がん細胞に限らず、増殖が盛んな正常細胞にも影響を与えるため、脱毛や吐き気などの副作用が生じることがあります。は頭髪だけでなく眉毛やまつげにも影響を及ぼします。眉毛が薄くなったり消えたりすると、顔の印象が大きく変わり、鏡を見るたびにつらい思いをされる方がいらっしゃいます。
眉毛の対策としては、医療用のアイブロウペンシル眉毛を描くためのペンシル状の化粧品です。医療用のものは通常の化粧品より肌に優しい成分で作られており、汗や皮脂で落ちにくいのが特徴です。が便利です。通常の化粧品よりも肌にやさしい成分で作られており、汗や皮脂で落ちにくい処方のものが多いです。描くコツとしては、脱毛前の眉毛の写真を参考にしながら、一本一本の毛を描くイメージで少しずつ線を足していくと自然な仕上がりになります。眉毛用のテンプレート(型紙)も市販されていますので、左右対称に描くのが難しい方は試してみてください。
まつげが抜けると目の保護機能が弱まりますから、ほこりや紫外線から目を守るためにメガネやサングラスの着用をおすすめします。つけまつげも選択肢のひとつですが、接着剤でまぶたがかぶれることがありますので、低刺激タイプの接着剤を使い、少しでも異常を感じたらすぐに外してください。もう一つの選択肢として、薬剤を使用することもできます。グラッシュビスタ(GLASH VISTA)厚生労働省が認可した、まつ毛を長くしたり濃くしたりするための医療用薬剤です。抗がん剤治療でまつ毛が抜けた場合、医師の処方によって使用できる選択肢の一つです。は、厚生労働省が認可した医療用まつ毛貧毛症治療薬(まつ毛育毛剤)です。自費診療にはなってしまいますが、私の患者さんも何人かこちらを使用されているケースがあり、効果は非常に高いようです。医師に処方箋を書いていただき、薬局で購入することができると思います。

髪が再び生えてくるまでのプロセス
化学療法抗がん薬を使ってがん細胞を攻撃する治療法です。全身に作用するため、がん細胞だけでなく正常な細胞にも影響を与えることがあり、脱毛はその副作用の一つです。が終了すると、多くの場合1〜3か月ほどで毛髪が再び成長を始めます。最初に生えてくる毛は非常に細く柔らかいうぶ毛体の表面に生えている細くて薄い毛のことです。化学療法後に最初に生えてくる髪はこのような細い状態で、次第に太く成長していきます。のような状態で、色も以前と異なることがあります。ストレートだった髪がカールを帯びたり、黒髪だったのにグレーがかった色で生えてきたりするケースは珍しくありません。これは毛母細胞髪の毛を作り出す細胞のことです。このセルは非常に増殖速度が速いため、抗がん剤の影響を受けやすく、治療中に髪が抜ける原因となります。がダメージから回復する過程で一時的に起こる変化であり、時間の経過とともに元の髪質に近づいていくことが多いです。ただし、完全に以前と同じ状態に戻るまでには半年から1年、場合によってはそれ以上かかることもありますので、焦らずに経過を見守っていただきたいと思います。
治療終了後3〜6か月が経つと、髪の長さは2〜3センチ程度になり、ベリーショート髪を短く切ったヘアスタイルのことです。治療後に再生した髪が2~3センチ程度になった段階で、この長さに整えることでウィッグから地毛への移行がスムーズになります。のスタイルとして整えることができるようになります。この段階で美容師さんに相談して形を整えてもらうと、ウィッグから地毛への移行がスムーズになります。「ウィッグを卒業する日」を目標にされる患者さんも多く、それが治療を乗り越えるモチベーションになっているとおっしゃる方もいらっしゃいますね。

自己イメージの揺らぎとどう付き合うか
患者さんへのアピアランスケア治療に伴う外見の変化(脱毛や肌荒れなど)に対して、ウィッグやメイクなどで対応し、患者さんの自信と生活の質を守るための医療ケアです。は現在は医療者にとっても大きなテーマです。脱毛は身体の変化であると同時に、心の問題でもあります。鏡に映る自分が以前と違って見えること、外出先で人の視線が気になること、家族の前でも帽子を脱ぎたくないと感じること。これらは「弱さ」ではなく、自己イメージが大きく揺さぶられたときに誰にでも起こりうる自然な反応です。
※ 身体の変化と心の回復についてさらに詳しくは「第三回 治療と「わたしらしさ」のゆくえ〜身体の変化と心の回復をめぐって」をご覧ください。

心理的なサポートを受けることは、治療の一部として非常に重要です。多くのがん診療連携拠点病院国が指定した、高度ながん医療を提供する中核的な病院です。専門の医師や看護師に加え、心理的サポートを行う相談窓口も設置されています。には「がん相談支援センター」が設置されており、臨床心理士心理学の専門知識を持ち、患者さんの心理的な問題や悩みについてカウンセリングを行う専門家です。治療に伴う不安や気分の落ち込みなどの相談ができます。やソーシャルワーカー患者さんが抱える医療費や職場復帰など、生活全般に関する問題をサポートする専門家です。医学的な治療以外の生活課題について相談できます。に無料で相談できます。また、同じ経験をした患者さん同士で語り合う「ピアサポート同じ経験をした患者さん同士が互いに情報や経験を共有し、精神的にサポートし合う活動です。同じ立場の人の話を聞くことで、心理的な負担が軽くなることがあります。」のグループも全国各地で活動しています。慶應病院では、乳がん看護認定看護師乳がんの患者さんのケアについて特別な教育と経験を積んだ看護師です。治療中の心身のケアや生活上の相談など、幅広いサポートを提供します。の資格を持った看護師さんに相談することもできます。自分の気持ちを言葉にして誰かに聞いてもらうだけで、心が軽くなることがあります。もしも気分の落ち込みが長く続いたり、眠れない日が増えたりした場合は、主治医に伝えてください。必要に応じて心療内科心と体の両面から病気に対応する医療科です。治療中に気分の落ち込みが続いたり眠れなくなったりした場合に、心理的なサポートを受けることができます。やメンタルヘルスの専門家と連携をとることができます。
職場や学校で脱毛をどう伝えるか
治療中も仕事や学業を続ける方にとって、周囲にどこまで話すかは悩ましい問題です。法律上、病気のことを職場に開示する義務はありませんし、伝えないという選択もまったく問題ありません。ウィッグや帽子を上手に使えば、見た目の変化に気づかれないまま過ごすことも十分に可能です。
一方で、信頼できる上司や同僚に事情を伝えておくと、体調が悪い日に業務を調整してもらいやすくなるという実際的な利点もあります。伝え方としては、「抗がん剤の副作用治療薬が本来の治療目的以外に生じさせる、望ましくない作用のことです。脱毛は抗がん剤治療の典型的な副作用で、多くの場合は治療終了後に回復します。で一時的に髪が抜けることがありますが、治療が終われば戻ります」とシンプルに事実を説明するのがよいでしょう。詳しい病状まで話す必要はなく、相手に何をしてほしいか(例えば、見た目のことに触れないでほしい、帽子の着用を許可してほしい、など)を具体的に伝えると、相手も対応しやすくなります。
回復期の新しい髪のためのヘアケア
新しく生えてきた毛髪は赤ちゃんの髪のように細く繊細ですから、ケア製品も慎重に選んでいただきたいと思います。まず、シャンプーは引き続き低刺激のものを使い、コンディショナーやトリートメントは毛先だけにつけるようにしてください。頭皮にコンディショナーが残ると毛穴を詰まらせる原因になりますので、しっかりすすぐことが基本です。
スタイリング剤については、アルコール含有量の少ないものを選ぶとよいでしょう。ワックスやジェルなど重みのある製品は、まだ細い毛髪にとって負担になることがあります。軽めのヘアミルクやオイルを少量なじませるくらいが適度です。ドライヤーを使う場合は、温度を低めに設定して頭皮から20センチ以上離して当て、同じ場所に長時間熱風を集中させないよう気をつけてください。
頭皮マッサージも回復を助ける良い習慣です。指の腹を使って、頭頂部からこめかみ、後頭部にかけてゆっくりと円を描くようにほぐしていきます。強い力は必要ありません。気持ちよいと感じる程度の圧で十分です。これにより頭皮の血行が促され、毛根への栄養供給がスムーズになると考えられています。お風呂上がりの習慣にすると、リラクゼーション効果もあいまって続けやすいですね。カラーリングやパーマについては、新しい毛髪が5センチ以上伸び、髪質が安定してきた段階で美容師さんと相談のうえ検討してください。治療終了後半年以上経過していることを一つの目安にしている医療機関が多いです。
医学的なまとめと今後の展望
化学療法にともなう脱毛は、毛母細胞の高い増殖活性が抗がん剤の標的となることで生じる、治療と表裏一体の副作用です。しかし、そのほとんどは可逆的一時的に変わったり失われたりした状態が、時間とともに元に戻ることができる性質です。化学療法による脱毛はほとんどの場合これに該当し、治療終了後に髪は再生します。であり、治療終了後に毛髪は再生します。脱毛の過程を事前に理解し、ウィッグやスカーフなどの外見ケアを計画的に準備しておくことで、治療期間中の生活の質を大きく維持することが可能です。頭皮ケアにおいては低刺激製品の選択と清潔の維持が基本であり、回復期には穏やかなヘアケアと頭皮マッサージが新しい毛髪の健全な成長を助けます。
近年では、治療中の脱毛を軽減する「頭皮冷却療法(スカルプクーリング)治療中に頭皮を冷やすことで、頭部への抗がん剤の血流を減らし、脱毛を軽減させる治療法です。海外ではすでに有効性が報告されており、日本国内での導入が増えてきています。」の研究が進んでおり、海外ではすでに一定の有効性が報告されています。日本国内でも導入する施設が徐々に増えてきており、今後さらにエビデンスが蓄積されることで、脱毛という副作用そのものを減らせる可能性があります。こちらについては、別の記事で紹介したいと思います。治療の本質はがんを克服することにありますが、その過程で患者さんの日常生活と自己イメージを守ることもまた、現代の医療者が担うべき大切な役割です。
📖 化学療法にともなう脱毛との向き合い方 〜 準備から回復までの実践ガイド(2/2)