第五回 トリプルネガティブ乳がん治療中の副作用対策

乳がんサブタイプ別の最新治療 〜 初期治療編

これまで、トリプルネガティブ乳がんの診断から手術までの流れ、そして免疫チェックポイント阻害薬を含む最新の治療法についてお伝えしました。ここからは、治療中の様々な課題とその対策、そして長期的な経過観察について、より詳しくご説明していきます。

治療中の副作用とその管理

キイトルーダ免疫チェックポイント阻害薬の一種で、トリプルネガティブ乳がんの治療に使われます。体の免疫細胞ががん細胞を攻撃しやすくする薬です。を含む化学療法抗がん剤を使ってがん細胞を殺す治療方法です。全身に作用するため、がんが転移している場合にも効果があります。は効果が高い反面、副作用も多岐にわたります。患者さんが安心して治療を続けられるよう、副作用の管理は治療そのものと同じくらい重要です。

※ 脱毛への具体的な対処法については「第一回 脱毛に関わる知識と準備」をご覧ください。

化学療法の代表的な副作用として、まず吐き気や嘔吐が挙げられます。ただし、現在は予防的に複数の吐き気止めを組み合わせて使うことが標準的になっており、「抗がん剤=ひどい吐き気」というイメージは昔に比べてかなり改善されています。NK1受容体拮抗薬吐き気を防ぐために使う薬で、脳の吐き気中枢に働きかけます。最新の吐き気止めの一つです。セロトニン受容体拮抗薬抗がん剤による吐き気を防ぐ薬です。化学療法中に使われる吐き気止めの重要な種類の一つです。ステロイド炎症を抑えたり免疫の働きを調整したりする薬です。吐き気止めとしても使われます。の三剤併用が一般的で、多くの患者さんが日常生活を大きく損なうことなく治療を続けられています。

抗がん剤によって、白血球(とくに好中球白血球の一種で、細菌やウイルスなど病原体と戦う重要な細胞です。抗がん剤で減少すると感染症にかかりやすくなります。)が減少すると感染症にかかりやすくなります。パクリタキセル週一回投与のスケジュールでは比較的軽度であることが多いですが、AC療法やEC療法では好中球減少が顕著になることがあり、必要に応じてG-CSF製剤白血球を増やすための注射薬です。抗がん剤で白血球が減り過ぎるのを予防するために使われます。(白血球を増やす注射)を予防的に使用します。発熱が38度以上ある場合にはただちに医療機関に連絡していただくよう、治療開始前にしっかりとご説明しています。

脱毛は多くの患者さんにとって心理的な負担が大きい副作用です。アンスラサイクリン系特定の抗がん剤のグループで、がん細胞のDNAを傷つけることで効果を発揮します。AC療法やEC療法に含まれます。タキサン系別の抗がん剤のグループで、がん細胞の分裂を阻止します。パクリタキセルはこのグループに属しています。ともに脱毛を引き起こしますが、治療終了後には必ず髪は再び生えてきます。治療中はウィッグや帽子を活用される方が多く、最近は医療用ウィッグの品質も向上しています。頭皮冷却装置(スカルプクーリング治療中の脱毛を少なくするために、頭皮を冷やす装置です。冷えることで髪の毛に届く薬の量を減らします。)を使って脱毛を軽減する試みも一部の施設で行われていますが、トリプルネガティブ乳がんのように複数レジメンを逐次使用するケースでは、その効果が限定的であることも理解しておく必要があります。

パクリタキセルに特徴的な副作用として、手足のしびれ(末梢神経障害手足の指先のしびれやピリピリとした感覚が出る副作用です。パクリタキセルでよく見られ、治療終了後も続くことがあります。)があります。指先や足先にピリピリとした感覚やしびれが出ることがあり、場合によっては治療終了後もしばらく続くことがあります。症状の程度によっては投与量を調整したり、投与間隔を変更したりすることもあります。日常生活では、熱いものや冷たいものを直接触れないよう手袋を使ったり、転倒予防のために歩きやすい靴を選んだりすることが勧められます。

カルボプラチンプラチナ製剤という抗がん剤の一種で、トリプルネガティブ乳がんに効果的です。特にBRNA遺伝子に変異がある患者さんに有効です。を併用する場合には、腎臓への影響や血小板減少に注意が必要で、定期的な血液検査でモニタリングを行います。カルボプラチンはプラチナ製剤白金を含む抗がん剤のグループです。がん細胞のDNAを直接傷つけることで、特にDNA修復機構に異常があるがん細胞に効きやすいです。と呼ばれるグループに属する薬剤で、トリプルネガティブ乳がんにおいてはDNA修復機構の異常を持つがん細胞に特に効果を発揮しやすいとされています。BRCA遺伝子変異一部の患者さんが持つ遺伝子の異常で、がんになりやすくなります。この変異がある場合、プラチナ製剤がより効果的です。を持つ患者さんでは特にその恩恵が期待できますが、変異がない方でもカルボプラチンの追加がトリプルネガティブ乳がんのpCR率術前化学療法後に手術で取り出した組織に、がん細胞がまったく残っていない状態の達成率です。治療の効果を示す重要な指標です。を高めるというデータが蓄積されています。

そして免疫チェックポイント阻害薬であるキイトルーダには、従来の化学療法とは異なるタイプの副作用があります。それは、「免疫関連有害事象(irAE)免疫チェックポイント阻害薬で起こる特有の副作用で、免疫が過剰に働いて自分自身の臓器を攻撃してしまう現象です。」と呼ばれるもので、免疫の働きが過剰になることで自分自身の臓器を攻撃してしまう現象です。甲状腺機能低下症甲状腺の働きが低下し、ホルモンが不足する状態です。だるさや体重増加などの症状が出ることがあります。や甲状腺機能亢進症は比較的頻度が高く、だるさや体重変化、動悸などの症状として現れることがあります。他にも肺臓炎(間質性肺炎肺の組織に炎症が起こる病気です。免疫チェックポイント阻害薬の副作用として報告されることがあります。)、肝機能障害、大腸炎(下痢)、皮膚の発疹、副腎不全、1型糖尿病などが報告されていますが、いずれも早期に発見して適切に対処すれば多くの場合はコントロール可能です。キイトルーダ投与中は、少しでもいつもと違う体調の変化を感じたら遠慮なく主治医やスタッフにお伝えいただくことが極めて重要です。

副作用に対する支持療法は、がん治療のチーム全体で取り組むべきテーマであり、薬剤師による服薬指導、看護師によるセルフケア指導、栄養士による食事のアドバイス、そして心理的なサポートを行う臨床心理士やソーシャルワーカーの関与など、多職種チームで患者さんを支える体制が整っていることが理想的です。

治療経過中の検査と評価

術前化学療法手術の前に行う化学療法で、腫瘍を小さくしてから手術を行いやすくします。治療効果を判定する重要な期間でもあります。を進めている間、定期的な検査で治療効果を確認しながら治療計画を適宜調整します。

超音波検査は最も頻繁に行われる評価手段で、各レジメンの区切り、あるいは術前化学療法が終わった直後の腫瘍の大きさの変化を測定します。触診も重要で、実際にしこりの硬さや大きさの変化を手で確認することは、画像検査を補完する情報を提供してくれます。

MRI検査磁力を使ってがんの範囲を詳しく調べる画像検査です。手術の方法を決めるときに超音波より正確な情報を提供します。は、超音波よりも正確に腫瘍の範囲を評価できるため、手術の方法を最終的に決定する際にとくに有用です。多くの場合、術前化学療法の終了後にMRIを撮影し、治療前の画像と比較します。

血液検査は毎回の治療サイクルの前に行い、白血球数、好中球数、ヘモグロビン値赤血球に含まれるタンパク質の量を示す値で、貧血の程度を判定します。抗がん剤で低下することがあります。血小板数血液を固めて出血を止める細胞の数です。抗がん剤で減ると出血しやすくなります。、肝機能、腎機能、そしてキイトルーダ使用中は免疫関連有害事象に関する項目も定期的にチェックします。血液検査の値が基準を下回る場合には治療を延期したり、薬の量を減らしたりすることがあります。これは治療効果を最大化しつつ安全性を確保するために必要な判断であり、「予定通りに治療が進まない」と落胆する必要はありません。

治療の途中で腫瘍が縮小せず、むしろ大きくなっている場合(これを「進行(PD)治療中に腫瘍が縮小せず、むしろ大きくなっている状態です。このときは治療方針の変更が必要になります。」と呼びます)には、レジメンの変更を検討したり、抗がん剤治療を中断して手術を検討する必要があります。幸い、このような状況は頻度としては多くありませんが、万が一そうなった場合には主治医と密に相談していくことが重要です。

ここまで、治療中に起こりうる副作用にどう向き合い、検査を通じて治療の効果をどう評価するかについてお伝えしました。しかし乳がんの治療は、すべての治療が終わることがゴールではありません。その後の人生をより良く過ごすために、長期的な経過観察がとても大切になります。

※ 本記事は情報提供を目的としており、医療行為の代替となるものではありません。症状がある場合は必ず医療機関を受診してください。
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