乳がん検診の「高濃度乳房」が本人に通知される方向へ──方針転換の経緯と、患者さんが知っておきたいこと

乳がん検診の結果で高濃度乳房かどうかが本人に通知される方向へ、厚生労働省が方針を転換したことを示す図

この記事の要点

  • 乳房構成の通知とは:マンモグラフィで「高濃度乳房」かどうかを受診者本人に伝える取り組みで、厚生労働省が「時期尚早」から通知を進める方針へ転換しました
  • 高濃度乳房は病気ではなく体質ですが、乳腺濃度が高いほど乳がんの発症リスクが高くなる関連は確立しています
  • 通知が始まっても追加の超音波検査が自動的に公的検診に加わるわけではなく、現時点では自費です
  • 「マンモグラフィで見つけにくい」は「検診に意味がない」ではありません

乳がん検診で撮影したマンモグラフィの結果に、これから「乳房構成」という項目が加わっていく見込みです。乳腺の量が多く病変が見つけにくい「高濃度乳房」かどうかを、受診した本人に伝える方向へ、厚生労働省が従来の方針を転換しました。長く「時期尚早」とされてきた論点が動いたことになります。この記事では、そこまでの経緯と、通知を受け取る立場から知っておきたいことを整理します。

通知していた自治体は2割程度だったが、全国で通知する方向へ変わることを対比した図
目次

何が決まったのか──ここまでの経緯

日本の乳がん検診では、これまで高濃度乳房であることを本人に伝える法的な義務がありませんでした。欧米では通知が義務化されている国がある一方、日本では自治体ごとの判断に委ねられ、通知していたのは全体の2割程度にとどまっていました。

この「時期尚早」という判断には出典があります。2017年に、今回と同じ日本乳癌検診学会・日本乳癌学会・日本乳がん検診精度管理中央機構の3団体が「対策型乳がん検診における『高濃度乳房』問題の対応に関する提言」を公表し、受診者の知る権利は尊重しつつも、対策型検診として一律に通知することは時期尚早である、との考え方を示していました。今回の見解は、同じ3団体がその立場を9年ぶりに改めたものです。

動きが加速したのは2026年です。

  • 2026年3月19日──日本乳癌検診学会・日本乳癌学会・日本乳がん検診精度管理中央機構の3団体から、「高濃度乳房を含めた乳房構成については、国および学会等が連携して、各自治体における情報提供体制を整えた上で、受診者に通知されることが望ましい」との見解が示されました。
  • 2026年3月23日──厚生労働省が、自治体の取組が進むよう3団体と連携し、同年夏頃を目途に、自治体が乳房構成を通知する際に活用できる資材等を準備する方針を示しました。
  • 2026年6月5日──参議院の予算委員会で、厚生労働省の健康・生活衛生局長が、高濃度乳房の場合は受診者に通知すると答弁しました。これまでの「時期尚早」という方針の転換です。
  • 2026年7月16日──「がん検診のあり方に関する検討会」の資料として、乳房構成の通知に関する論点が整理されました。

今後は、国が用意する説明資材やQ&Aが自治体に周知され、各自治体で順次通知が始まっていくという流れになります。ただし現時点では準備段階であり、「全国一律でいつから始まる」という日付は決まっていません。

そもそも「高濃度乳房」とは──通知される「乳房構成」の4分類

乳房は、母乳をつくる乳腺組織と、それを包む脂肪組織からできています。この二つの割合は人によって異なり、乳腺組織の割合が高い状態を「高濃度乳房(デンスブレスト)」と呼びます。

マンモグラフィはX線で撮影するため、乳腺組織は白く写ります。そして、がんも同様に白く写ります。乳腺が多いと画像全体が白っぽくなり、その中に小さな病変が紛れて見つけにくくなることがあります。これが「高濃度乳房では見つけにくい」と言われる理由です。あたかも雪景色の中に白ウサギを見つけ出さなければならない状況と似ていますね。

乳房構成の4区分(脂肪性・乳腺散在・不均一高濃度・極めて高濃度)と、後半2つが高濃度乳房にあたることを示した図

今回の通知で伝えられる「乳房構成」は、この割合に応じた次の4区分です。

  • 脂肪性
  • 乳腺散在
  • 不均一高濃度
  • 極めて高濃度

このうち後半の2つ(不均一高濃度・極めて高濃度)が高濃度乳房にあたります。乳腺の量は若い方や授乳経験のない方で多い傾向があり、日本人女性ではおよそ4割が高濃度乳房に該当するとされます。

そして最も大切な点は、高濃度乳房は病気ではなく、その人の乳房の個性だということです。 通知が届いたとしても、それ自体は「異常が見つかった」という知らせではありませんし、精密検査が必要という意味でもありません。

では高濃度乳房だと分かったとき、マンモグラフィと超音波をどう組み合わせて考えればよいのか。年齢や乳腺タイプ別の具体的な判断は、マンモグラフィーと超音波、どちらを受けるべき?で解説しています。

高濃度乳房は、乳がんの発症リスクとも関連します

もう一点、あわせて知っておいていただきたいことがあります。高濃度乳房は病気ではありませんが、乳腺濃度が高いほど乳がんの発症リスクが高くなるという関連は、すでに確立した知見です。日本乳癌学会の『乳癌診療ガイドライン2026年版』でも、マンモグラフィの乳腺濃度と乳がん発症リスクの関連が取り上げられています。日本人を対象とした研究でも、高濃度乳房は有意なリスク因子であったと報告されています。

「病気ではない」と「リスクが高い」は、矛盾しません。前者は「今この瞬間にがんがあるわけではない」という意味であり、後者は「集団として見たときに発症しやすさに差がある」という統計上の話です。

そして、この2つがそろうことが、今回の通知に意味がある理由です。高濃度乳房には、マンモグラフィで見つけにくいという検査上の課題と、乳がんの発症が多いというリスクの両方があります。だからこそ、自分の乳腺濃度を知っておくことが、次の検診をどう受けるかを考える材料になります。

ただし、リスクの大きさは単独で受け取らず、他の要因と並べて捉えるべきです。乳がんのリスクには高濃度乳房だけではなく、年齢、家族歴、女性ホルモンに関わる要因など複数の要素があります。それぞれの位置づけは乳がんの原因・なりやすい人の特徴で整理しています。

高濃度乳房はマンモグラフィで見つけにくく、発症リスクとも関連するため、自分の乳房構成を知る意味があることを示した図

患者さんに留意していただきたい5つのこと

1. 通知が来ないことは「高濃度ではない」という意味ではありません。
制度が行き渡るまでは、自治体によって通知の有無が分かれます。気になる場合は、検診機関や主治医に「自分の乳房構成はどうでしたか」と尋ねてかまいません。

2. 通知が始まっても、追加の超音波が自動的に無料になるわけではありません。
現時点で、高濃度乳房だからといって超音波検査が公的な対策型検診に加わるわけではなく、追加で受ける場合は自費(任意型検診)となります。ここは誤解が生じやすい点です。今後の制度設計で変わる可能性はありますが、現時点では決まっていません。

3. 「マンモグラフィで見つけにくい」は「検診に意味がない」ではありません。
これがいちばん避けたい誤解です。マンモグラフィによる検診は、死亡率を下げる効果が確認された方法です。見つけにくさがあるからこそ、定期的に受け続ける価値があります。通知を、検診から足が遠のく理由にしないでください。

4. 乳房構成は変わります。
乳腺の量は年齢や授乳、月経の有無などによって変化します。通知される内容は「今回の検診時点の状態」であり、生涯変わらない属性ではありません。

5. 追加の検査には、利益と不利益の両方があります。
超音波を追加すると、マンモグラフィでは見つけにくいしこりが見つかる可能性が高まります。一方で、結果的にがんではなかった所見のために精密検査を受けるという負担も増えます。「不安だから全部受ける」ではなく、家族歴などご自身の状況を踏まえて主治医と相談して決めるのが現実的です。
なお見解では、高濃度乳房と通知された場合でも一律に追加検査を受ける必要はなく、日ごろから自分の乳房の状態に関心をもち、変化に気づいたら相談する——ブレスト・アウェアネスという考え方が基本であるとされています。検診を受けることと、ふだんの自分の状態を知っておくことは、どちらか一方ではなく両方が必要です。

この方針転換が持つ意味

今回の転換は、日本の乳がん検診が「全員に同じ検査を」という考え方から、「自分の乳房の特性を知って、検査の組み合わせを相談する」という方向へ一歩進んだことを意味します。

ただし、これで制度が完成というわけではありません。国の議論でも、通知が誤解や不安を招かないための体制整備が前提とされています。「知らせる」だけでは足りず、知らせた後に相談できる受け皿をどれだけ用意できるかが、これからの課題です。 その体制が整うまでは過渡期であり、当面は受診者ご自身が検査機関に尋ねる必要性があります。

外来でも、高濃度乳房と伝えられて不安になる方は少なくありません。

高濃度乳房であることは、不安に押しつぶされる必要のあるものではありません。ただ「気にしなくていい」ということでもありません。見つけにくさと発症リスクの両方が関わるからこそ、自分の乳腺濃度を知っておく意味があります。知ったうえで、次の検診をどう受けるかを検討できること──それが今回の通知のいちばんの意味だと考えています。

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