この記事の要点
- 乳がんの再発には、もとの手術部位の近くに起こる局所再発と、離れた臓器に起こる遠隔転移の2種類があります
- 遠隔転移が起こりやすいのは、骨・肺・肝臓・脳・離れた場所のリンパ節です
- 症状で気づくこともあれば、自覚症状がまったくないまま検査で見つかることもあります
- 局所再発のしこりは、そのほとんどが痛みを伴いません。注意すべきは「痛くないしこり」のほうです
- 気になる症状の大半は、再発以外の原因によるものです
- 腫瘍マーカーの数値だけで再発が決まることはありません
- 再発・転移と診断されても、治療の選択肢はこの10年で大きく増えています
治療が一段落しても、再発への不安が完全に消えることはありません。私の外来でも多くの患者さんが「どこに転移が出現するのか」「どんな症状があれば受診すべきか」を繰り返し尋ねられます。ところが、この問いに横断的に答えている情報は驚くほど少なく、多くはサブタイプ別・薬剤別に分かれていて、自分がどれに当てはまるのか分からない方には辿りにくいのが実情です。
そこでこの記事では、サブタイプの違いをいったん脇に置き、再発・転移は「どこに」「どんな症状で」「どうやって見つかるのか」を一本の流れで整理します。
乳がんの再発には2つの種類がある──局所再発と遠隔転移
まず押さえておきたいのは、「再発」と一言で言っても、意味も治療方針も異なる2つのタイプがあるということです。
局所再発・領域再発
手術をした乳房やその周囲に、再びがんが現れるものです。具体的には次のような場所です。
- 温存した乳房の中(乳房部分切除を受けた方)
- 胸壁や皮膚(乳房全切除を受けた方。傷あとの周囲や皮膚の下にしこりとして触れることがあります)
- 腋窩(わきの下)のリンパ節
自分で触れて気づく、あるいは診察や画像検査で見つかることが多いタイプです。
ここで知っておいていただきたいのは、局所再発のしこりは、そのほとんどが痛みを伴わないという点です。だからこそ、注意していただきたいのは「痛くないしこり」のほうです。
痛みや赤み、熱をもったしこりは、脂肪壊死や術後の炎症、感染など、再発以外の原因であることのほうが多いものです。一方、局所再発として現れるしこりは、痛みがないまま、硬く、周囲との境界がはっきりせず、押しても動きにくく、数週間たっても小さくなりません。
「痛くないから大丈夫だろう」という判断は、この病気に関しては逆向きです。痛みのないしこりに気づいたら、それこそが受診の理由になります。
重要なのは、局所・領域再発は、状況によっては再び根治を目指した治療(追加の手術や放射線治療・薬物療法)の対象になるという点です。「再発=手の打ちようがない」という理解は正しくありません。
遠隔転移
がん細胞が血液やリンパの流れに乗って、乳房から離れた臓器にたどり着き、そこで増えたものです。この場合は全身を対象とした薬物療法が治療の中心になります。この遠隔転移が認められた場合は、根治を目指す治療ではなく、乳がんと共存し、付き合っていく治療を行っていきます。

このように同じ「再発」でも、この2つは意味するところは大きく違います。ご自身の状況がどちらなのかを把握して、それぞれの大まかな治療戦略を知ることが、治療に積極的に向き合っていくためには必要です。
どこに転移しやすいのか──部位別の症状
乳がんの遠隔転移で頻度が高いのは、骨・肺・肝臓・脳・遠隔リンパ節です。順に見ていきます。
骨転移
乳がんの遠隔転移の中で、最も多い部位です。背骨(脊椎)、骨盤、肋骨、大腿骨の付け根などに起こりやすく、症状として現れるのは痛みです。
ただし、腰痛や背中の痛みは、乳がんの経験があってもなくても、多くの方が日常的に経験するものです。区別の手がかりになるのは痛みの性質です。
| 骨転移で気をつけたい痛み | よくある整形外科的な痛み |
|---|---|
| 安静にしていても痛む | 動かすと痛む、休むと楽になる |
| 夜間や明け方に痛みで目が覚める | 夜間はあまり気にならない |
| 週〜月の単位で少しずつ強くなる | 良い日と悪い日を繰り返す、やがて軽快する |
| 特定の一点を押すと痛む | 広い範囲が張るように痛む |
腰や背中の痛みの大半は、骨転移ではありません。ぎっくり腰や加齢による変化のほうがはるかに多く、また乳がんの治療そのもの(アロマターゼ阻害薬による関節痛など)が原因のこともあります。ただし、上の表の左側に当てはまる痛みが1〜2か月以上続く場合は、次の受診を待たずに相談してください。
肺転移
咳が長引く、少し動いただけで息切れがする、といった症状で気づかれることがあります。ただし肺転移は、自覚症状がまったくないまま、定期検査の画像で見つかることが少なくありません。
一方で、長引く咳のほとんどは感染症やアレルギー、喘息などによるものです。数日〜1、2週間で軽快する咳を、そのたびに転移と結びつけて考える必要はありません。目安は「3週間以上続く咳」や「以前はできていた動作で息が切れるようになった」という変化です。
肝転移
肝臓は「沈黙の臓器」と呼ばれる通り、転移があっても初期には症状が出にくい部位です。だるさ、食欲の低下、みぞおちや右の脇腹の重い感じ、皮膚や白目が黄色くなる(黄疸)といった症状は、かなり進行してからしか現れません。
そのため肝転移は、症状よりも先に、血液検査(肝機能や腫瘍マーカー)や画像検査で見つかることが多いのが特徴です。

脳転移
頭痛、吐き気、ふらつき、まっすぐ歩けない、手足が動かしにくい、物が見えにくい・二重に見える、言葉が出にくい、けいれん──といった神経の症状で気づかれます。
はじめにお伝えしておきたいのは、脳が「最初の再発部位」になることは、非常に少ないということです。骨や肺、肝臓と比べると、再発が脳から始まるケースはまれで、脳転移の多くは、他の臓器にすでに転移がある経過の中で現れます。
つまり、それまで再発の指摘を受けていない方が、頭痛やめまいから脳転移を心配する必要は、ほとんどありません。頭痛の原因の圧倒的多数は、それ以外のありふれたものです。
そのうえで、朝起きたときに強い頭痛がある、吐き気を伴う、これまで経験したことのないタイプの頭痛が続く、あるいは手足の力が入りにくい、しゃべりにくいといった症状が新たに出た場合は、早めの受診が必要です。特に後者は、その日のうちに医療機関に連絡してください。
遠隔リンパ節転移
鎖骨の上や首の付け根、反対側のわきの下などに、痛みを伴わないしこりとして触れることがあります。風邪などで一時的に腫れるリンパ節と違い、押しても痛くない、硬い、数週間たっても小さくならない、という点が手がかりです。
再発はいつ多いのか──サブタイプによる違い
「何年経てば安心なのか」は、最も多い質問のひとつです。
全体としては、手術後数年のあいだが再発の頻度が高い時期で、その後は年を追うごとに低下していきます。ただし、ピークがいつ来るのか、そしてその後どう下がっていくのかは、サブタイプによってはっきりと異なります。ここが、サブタイプ別に分かれた情報だけを読んでいると見えにくい部分です。
- ホルモン受容体陽性・HER2陰性(ルミナールタイプ):再発の山はなだらかで、術後4年をピークに、緩やかに再発率は下がっていきます。そのため、術後5年を過ぎてから起こる「晩期再発」がありうるタイプです。ホルモン療法を5年ではなく10年続ける選択肢が検討されるのは、この性質があるためです。
- HER2陽性・トリプルネガティブ:比較的早い、術後2〜3年が再発率のピークですが、これを過ぎると再発率は大きく低下します。術後5年を過ぎると再発の頻度がはっきり下がるという特徴があります。とくにHER2陽性乳がんでは、トラスツズマブ(ハーセプチン)をはじめとする抗HER2薬が標準治療となって以降、この時期の再発そのものが大きく減りました。再発が起きた場合にも、抗HER2薬を軸とした治療の選択肢が広がっています。
つまり「10年経ったから絶対に大丈夫」とは言えない一方で、時間の経過とともにリスクが下がっていくことは確かです。とくにHER2陽性・トリプルネガティブの方にとって、5年という節目は統計的にも意味のある区切りになります。

ご自身がどのサブタイプかは、手術後に渡された病理結果の書類か、主治医への確認で分かります。分類の意味からあらためて知りたい方は、こちらをご覧ください。
自分のタイプが分からない方へ乳がんのサブタイプとは?── 4つの分類と自分のタイプを知る意味→どうやって見つかるのか
再発が見つかる経路は、大きく4つあります。

1. 自覚症状から
前述したような、しこり、続く痛み、長引く咳、神経の症状などです。ご自身が気づいて受診されるケースです。
2. 定期受診での診察・問診
胸壁や傷あと、わきの下、鎖骨の上を医師が触れて確認します。局所再発や遠隔リンパ節転移は、この診察で見つかることがあります。
3. 血液検査・腫瘍マーカー
乳がんではCEAやCA15-3といった腫瘍マーカーが用いられます。ただし、これらの数値の解釈には注意が必要です。
- 数値が基準値を超えても、再発以外の原因(喫煙、良性の疾患、検査時の状態など)で上がることがあります
- 逆に、転移があってもマーカーが上がらない方もいます
マーカーが上がった=再発、正常=再発なし、と一対一で対応するものではありません。上昇が見られた場合は、時間をおいて繰り返し測って推移を見る、画像検査で確認する、という手順を踏みます。一度の数値に動揺しすぎないことが大切です。
4. 画像検査
CT、骨シンチグラフィ、PET-CTなどです。症状や血液検査の所見をきっかけに行われるほか、経過観察の中で計画的に行われることもあります。
「症状がなくても全身を調べたほうがよいのでは?」
これも非常によく聞かれる質問です。不安な立場からすれば、定期的に全身をくまなく調べてほしいと思うのは自然なことです。
しかし日本の乳癌診療ガイドラインをはじめ、国際的な診療指針の多くは、症状のない方に対してCTや骨シンチグラフィ、PET-CTを定期的に全て行うことを一律には推奨していません。
理由は、複数の臨床試験で、無症状のうちから頻繁に全身検査を行った群と、症状や診察をきっかけに検査した群とで、その後の経過に明らかな差が示されなかったためです。一方で、頻回の検査には偽陽性(結局は再発でなかったものが疑われる)による追加検査と不安、被曝といった負担が伴います。
ただし、これは「何もしない」という意味ではまったくありません。定期的な診察と問診、そして手術していない側を含めたマンモグラフィによる検診は、明確に推奨されています。また、症状があれば、そのつど必要な検査を行います。何を、どの間隔で行うかは病状によっても変わりますので、ご自身の経過観察の方針は主治医に確認しておくとよいでしょう。
こんな症状が続いたら、次の受診を待たずに連絡を
判断の軸はシンプルです。「一定期間以上続く」か「日を追って悪化する」。この2つに当てはまるなら、受診の理由として十分です。続く期間の目安は症状によって異なります(下記参照)。
- 胸壁や傷あとの周囲、わきの下、鎖骨の上に、痛みのない新しいしこりを触れる(局所再発のしこりは、ほとんどが痛くありません)
- 安静時や夜間の痛みが1〜2か月以上続く、または強くなっている
- 3週間以上続く咳、以前はなかった息切れ
- 食欲がない、体重が減る、だるさが続く
- これまでにない頭痛が続く、吐き気を伴う
- 手足の力が入らない、しゃべりにくい、けいれん(→この場合はその日のうちに連絡してください)
「こんなことで受診してよいのか」と迷って様子を見てしまう方は少なくありません。しかし、受診して何もなかったと分かることには、それ自体に価値があります。次の定期受診まで一人で不安を抱える必要はありません。
よくある質問
Q. しこりに痛みがあります。これは再発ですか?
A. 痛みや赤み、熱を伴うしこりは、脂肪壊死や術後の炎症、感染など、再発以外が原因であることのほうが多いものです。むしろ注意していただきたいのは、痛みがなく、硬く、押しても動きにくく、数週間たっても小さくならないしこりのほうです。いずれの場合も、自己判断はせず主治医にご相談ください。
Q. 再発は何年目に多いのですか?
A. サブタイプによって異なります。HER2陽性・トリプルネガティブは術後2〜3年がピークで、5年を過ぎると頻度がはっきり下がります。ホルモン受容体陽性・HER2陰性(ルミナールタイプ)は術後4年ごろをピークになだらかに下がり、5年を過ぎてからの晩期再発もありえます。いずれのタイプでも、時間の経過とともにリスクが下がっていくことは確かです。
Q. 腫瘍マーカーが上がったら再発ということですか?
A. 数値だけで再発が決まることはありません。喫煙や良性の疾患など、再発以外の原因で上がることがあり、逆に転移があっても上がらない方もいます。上昇が見られた場合は、時間をおいて繰り返し測って推移を見る、画像検査で確認する、という手順を踏みます。一度の数値で判断するものではありません。
Q. 症状がなくても、定期的にCTなどで全身を調べたほうがよいですか?
A. 日本の乳癌診療ガイドラインをはじめ国際的な診療指針の多くは、症状のない方にCTや骨シンチグラフィ、PET-CTを定期的にすべて行うことを一律には推奨していません。頻繁に全身検査を行った群と、症状や診察をきっかけに検査した群とで、その後の経過に明らかな差が示されなかったためです。一方で、定期的な診察と問診、手術していない側を含めたマンモグラフィによる検診は明確に推奨されています。
Q. 局所再発と遠隔転移では、治療の考え方が違いますか?
A. 大きく違います。局所・領域再発は、状況によっては追加の手術や放射線治療・薬物療法で再び根治を目指せる場合があります。一方、遠隔転移では全身を対象とした薬物療法が中心となり、根治を目指すのではなく、進行を抑えながら乳がんと共存していく治療が目標になります。ご自身がどちらなのかは、主治医に確認しておく価値のある区別です。
再発・転移と診断されたら
ここまで読んで不安が強くなった方もいるかもしれません。最後にお伝えしたいのは、転移が見つかることは、治療の終わりを意味しないということです。
かつて遠隔転移は、治療の選択肢が限られる状況でした。しかしこの10年ほどで、サブタイプごとに効く薬が次々と登場し、転移した状態で治療を続けながら生活するという考え方が現実のものになっています。治療の目標は、がんを完全に消すことだけでなく、進行を抑えながら、日常生活の質を保つことに置かれます。
サブタイプ別に、いま何が使えるのかは、それぞれの記事で詳しく解説しています。
HER2陽性の転移乳がんの方へ
転移後も治療を続けるという選択HER2陽性転移性乳がんの「維持療法」という新しい作戦→
ホルモン受容体も陽性の方へイブランス(パルボシクリブ)がHER2陽性の維持療法として米国で承認→ホルモン受容体陽性の転移乳がんの方へ
薬が効きにくくなったときの次の一手カミゼストラント(経口SERD)が日本で承認→トリプルネガティブ乳がんの方へ
この10年で選択肢が増えた領域トリプルネガティブ乳がんの最新治療→不安との付き合い方について
再発について知ることは、不安を消すためではなく、不安の輪郭をはっきりさせるためにあります。「どんな症状なら相談すべきか」が分かっていれば、それ以外の日々を必要以上に警戒しながら過ごさずにすみます。
とはいえ、知識で解決しない部分が残るのも事実です。再発への不安は、治療が終わったあとにこそ強まることがあり、それは決して気の持ちようの問題ではありません。心の側面については、別の記事で扱っています。
治療が終わったあとの心のゆらぎ乳がん治療後の再発不安──「治療が終わったのに不安」は自然なこと→- 日本乳癌学会『患者さんのための乳がん診療ガイドライン2023年版』 jbcs.xsrv.jp
- 国立がん研究センター がん情報サービス「乳がん 治療」 ganjoho.jp
- 国立がん研究センター がん情報サービス「乳がん 検査」 ganjoho.jp
※ 本記事は上記の公的機関・学会等の情報をもとに、慶應義塾大学医学部 乳腺外科 林田哲 教授が監修しています。最終確認:2026-08-06












