乳がんの原因・なりやすい人の特徴は?── リスク要因を正しく知る

この記事の要点

  • 乳がんのリスク要因とは:乳がんの発症しやすさに関わる条件のことで、変えられないものと生活習慣に関係するものに分かれます。リスク要因があっても必ず乳がんになるわけではなく、診断された方の多くは明らかなリスク要因を持っていません
  • 変えられないリスク要因には性別・年齢・家族歴があります。母親や姉妹など一等親に乳がんの既往があるとリスクは約1.5〜2倍に高まり、BRCA1・BRCA2遺伝子変異があると生涯の発症リスクは40〜80%と非常に高くなります
  • 初潮が早い、閉経が遅い、出産経験がないなど女性ホルモンへの曝露期間が長いこと、高濃度乳房であることもリスクを高めます。生活習慣では閉経後の肥満・運動不足・飲酒習慣が挙げられます
  • 適度な運動習慣や健康的な体重の維持はリスクを下げる可能性があります。週150分程度の中等度の有酸素運動で乳がんリスクが10〜20%程度低減するという報告があります

乳がんの発症しやすさには、年齢・家族歴・女性ホルモン・生活習慣といった複数の条件が関わっています。これらは「変えられない要因」と「生活習慣に関わる要因」に大きく分けられますが、いずれも当てはまれば必ず発症するというものではありません。この記事では、乳がんのリスク要因を一つずつ整理し、「制汗剤で乳がんになる?」といったよくある誤解にもお答えします。

目次

乳がんになりやすい人とは?── まず知ってほしいこと

乳がんのリスク要因についてお話しする前に、ひとつ大切なことをお伝えしておきたいと思います。リスク要因があるからといって必ず乳がんになるわけではありませんし、リスク要因がない方でも乳がんになることはあります。実際、乳がんと診断された方の多くは、明らかなリスク要因を持っていません。リスク要因を知ることの意義は、「自分がなりやすいかどうか」を白黒つけることではなく、「より注意深く検診を受ける動機づけにする」ことにあります。

乳がんのリスク要因は大きく分けて、変えられないものと、生活習慣に関係するものの二つに分類できます。以下では、それぞれを具体的に見ていきましょう。

乳がんのリスク要因 ― 何がリスクを高めるのか

変えられない要因①:性別・年齢

変えられないリスク要因としてまず挙げられるのが、性別と年齢です。乳がんの約99%は女性に発生しますが、男性にもごくまれに発生します(全乳がんの約1%)。年齢については後のセクションで詳しく述べますが、日本人女性の乳がんの発症年齢は非常に特徴的です。

変えられない要因②:家族歴・遺伝(BRCA遺伝子)

家族歴も重要なリスク要因です。母親や姉妹といった一等親親、子ども、兄弟姉妹など、直接的な血縁関係にある最も近い親族を指します。血縁関係が遠い親族よりも遺伝的影響が強いとされています。の血縁者に乳がんの既往過去にかかったことのある病気や経験のことです。ここでは血縁者が以前乳がんにかかったことがあるかどうかを指します。がある場合、そうでない方と比較してリスクが約1.5~2倍に高まるとされています。特に血縁者が若い年齢で乳がんを発症していたり、複数の血縁者に乳がんがある場合は、遺伝性乳がん親から子へ受け継がれる特定の遺伝子の異常によって発症しやすくなる乳がんです。特定の遺伝子検査で診断できます。の可能性を考慮する必要があります。遺伝性乳がんの中で最もよく知られているのがBRCA1遺伝子およびBRCA2遺伝子の変異で、これらの変異を持つ方は生涯で乳がんを発症するリスクが40~80%と非常に高くなります。ただし、遺伝性乳がんは全乳がんの5~10%程度であり、乳がんの大多数はいわゆる「散発性特定の遺伝的原因が特定できない、偶発的に発生するがんを指します。乳がんの大多数はこのタイプです。」、つまり明確な遺伝的原因が特定されないものです。

遺伝性乳がんと散発性乳がんの違いを示す図解

遺伝性乳がんの診断やBRCA遺伝子検査を受けるべきかについては、遺伝性乳がんとBRCA遺伝子検査で詳しく解説しています。

女性ホルモンへの曝露(初経・閉経・出産・授乳歴)

女性ホルモンへの曝露期間が長いことも、リスクを高める要因です。初潮が早い(12歳未満)、閉経が遅い(55歳以降)、出産経験がない、初めての出産が35歳以降であるといった因子は、生涯を通じたエストロゲン女性ホルモンの一種で、乳腺の発育に関わるホルモンです。この物質への長期的な曝露が乳がんのリスク要因の一つとされています。への曝露が相対的に長くなるため、乳がんリスクと関連するとされています。同様に、更年期障害に対するホルモン補充療法更年期の症状を緩和するために、足りなくなった女性ホルモンを薬で補う治療です。長期間の使用は乳がんリスクをやや上昇させます。(特にエストロゲンとプロゲスチンの併用療法)を長期間使用することも、リスクをやや上昇させることがわかっています。

高濃度乳房(デンスブレスト)── 乳腺が多い人は乳がんになりやすい?

乳腺の「濃度」もリスク要因のひとつです。マンモグラフィ乳房のX線検査で、乳がんスクリーニングの際に最もよく用いられる検査方法です。乳房を圧迫して撮影します。(乳房のX線検査)で乳腺が白く密に写る「高濃度乳房(デンスブレスト)マンモグラフィで乳腺が白く密に映る乳房のことです。脂肪性乳房と比べて乳がんリスクが高く、検査でがんが見つかりにくい課題があります。」の方は、脂肪性乳房の方と比べて乳がんの発症リスクが高いことが知られています。乳がん検診の結果などで「乳腺が多い」「乳腺の量が多い」と言われるのは、この高濃度乳房のことを指しています。加えて、高濃度乳房ではマンモグラフィでがんが見つかりにくいという二重の問題があります。日本人女性は欧米の女性と比較して高濃度乳房の割合が高く、このことは日本における乳がん検診のあり方を考えるうえで重要なポイントとなっています。

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生活習慣(飲酒・肥満・運動不足・喫煙)

生活習慣に関連するリスク要因としては、肥満(特に閉経後の肥満)、運動不足、飲酒習慣が挙げられます。閉経後は卵巣からのエストロゲン産生が減少しますが、脂肪組織にはエストロゲンを合成する酵素(アロマターゼ脂肪組織に存在する酵素で、エストロゲンを合成する働きをします。肥満があるとこの酵素によるエストロゲン産生が増えるため、乳がんリスクが高まります。)が存在するため、体脂肪が多いとエストロゲンの産生量が増え、乳がんリスクが高まります。飲酒については、1日にアルコール10グラム(ビール中瓶1本程度)の摂取で乳がんリスクが約7~10%上昇するというデータがあり、量が増えるほどリスクも高くなります。喫煙についてはデータがやや一致しない部分もありますが、近年の研究では特に若い時期からの喫煙が乳がんリスクを上昇させる可能性が示唆されています。

反対に、リスクを下げる可能性がある要因

反対に、リスクを下げる可能性がある因子としては、適度な運動習慣、健康的な体重の維持、授乳経験などが挙げられます。週に150分程度の中等度の有酸素運動は、乳がんリスクを10~20%程度低減させるという報告があります。

乳がんが発生しやすい年齢 ― 日本の特徴と注意点

乳がんの好発年齢ある病気が発症しやすい年代のことです。乳がんは日本では40代後半~50代前半に発症のピークがあります。には、日本と欧米で少し異なる傾向が見られます。欧米では閉経後の60代~70代に罹患のピークがありますが、日本では40代後半から50代前半にかけてピークがあり、欧米よりも約10歳若い傾向があります。もちろん60代以降に発症する方も多いのですが、日本では比較的若い世代での発症が目立つという特徴があるのです。

日本人女性の乳がん年齢別発症率のイメージ — 40代後半にピークがある特徴

この日本特有の年齢分布は、食生活や体格の変化、出産パターンの変化などが複合的に影響していると考えられています。近年は日本でも閉経後の乳がんが増加傾向にあり、年齢分布が欧米に近づいてきているという報告もあります。

20代や30代での発症は全体から見れば極めて少数ですが、ゼロではありません。特にBRCA遺伝子がん抑制遺伝子の一種で、この遺伝子に異常があると乳がんや卵巣がんのリスクが大幅に高まります。遺伝性乳がんの原因として最も有名です。変異を持つ方では30代での発症もまれではなく、家族歴がある若い方は通常よりも早い時期からの検診を検討する価値があります。日本の自治体が実施するマンモグラフィ検診は一般に40歳以上を対象としていますが、近い肉親に乳がんを発症している方などは、それよりも早い時期から個別に検診を受診されることを検討することも必要です。

一方で、年齢にかかわらず、乳房に変化を感じたら医療機関を受診していただくことが大切です。あくまで検診というのは症状がない人が受けるものであり、次の項でご説明するように乳房に腫瘤体の中にできたしこりや塊のことです。乳房に腫瘤を触れる場合は、早急に医療機関を受診する必要があります。を触れるとか、乳頭から血液がでるなどの症状を認めた場合は、速やかに専門医を受診することが必要です。

よくある誤解 ― これは乳がんのリスク?

インターネット上には、乳がんのリスクについて科学的な裏づけのない情報も少なくありません。外来でもよくお尋ねいただくものについて、現時点でわかっていることを整理します。

制汗剤・デオドラントを使うと乳がんになる?
制汗剤やワキ用デオドラントの使用が乳がんの原因になるという説が広く知られていますが、これまでの疫学研究では両者の因果関係は確認されていません。通常の使用で過度に心配する必要はないと考えられています。

胸が大きい/小さいと乳がんになりやすい?
乳房の大きさそのものは、乳がんの発症リスクとは関連しないと考えられています。サイズではなく、前述の高濃度乳房(乳腺の密度)が、リスクや検査でのがんの見つけやすさに関わります。

身長が高いとなりやすい?
高身長の方で乳がんリスクがわずかに高いという報告はあります。ただし影響はごく小さく、身長は変えられる要因でもないため、過度に気にする必要はありません。

コーヒーを飲むとリスクが上がる?
コーヒーの摂取が乳がんリスクを高めるという確かな証拠はありません。適量であれば、リスクとの関連を心配する必要はないとされています。

牛乳・乳製品をとると乳がんになりやすい?
牛乳やヨーグルトなどの乳製品が乳がんのリスクを高めることはありません。多くの大規模な研究をまとめても、乳製品の摂取と乳がんの発症に関連は認められておらず、むしろヨーグルトなどの発酵乳製品ではリスクがやや低いとする報告もあります。乳製品を避ける必要はなく、カルシウムやたんぱく質の供給源として、ふだんの食事にバランスよく取り入れていただいて問題ありません。

ピル(経口避妊薬)を飲むとなりやすい?
経口避妊薬の使用中は乳がんリスクがわずかに上昇するという報告がありますが、使用をやめてから時間が経つと、その差は小さくなっていくとされています。避妊や月経の管理には利点もあるため、心配な場合は主治医にご相談ください。

(補足)乳がんが発生する仕組み

私たちの体では、細胞の増殖を促すがん遺伝子細胞の増殖を促進する働きをする遺伝子です。通常は適切に制御されていますが、この遺伝子が異常になると細胞が過剰に増殖し、がん化につながる可能性があります。(アクセル)と、増殖を抑えるがん抑制遺伝子細胞の増殖を抑制・制御する働きをする遺伝子です。細胞が異常に増殖するのを防ぐブレーキの役割をしており、この遺伝子が傷つくとがん化のリスクが高まります。(ブレーキ)がバランスよく働いています。乳がんは、乳腺の細胞の遺伝子(DNA)に傷(変異)が長い年月をかけて少しずつ蓄積し、このバランスが崩れることで発生します。つまり、検診でしこりが見つかっても、それは昨日今日できたものではなく、以前から静かに育っていた可能性が高いのです。

がん細胞が乳管の中にとどまっている段階を非浸潤がんがん細胞がまだ乳管や小葉の中にとどまっており、周囲の組織に広がっていない段階のがんです。転移の可能性は理論上はなく、適切に治療できれば予後は極めて良好です。(ステージ0)と呼び、この段階で適切に治療すれば予後は極めて良好です。がん細胞が周囲に広がると「浸潤がん」となり、早期発見の重要性はここにあります。がん化の詳しい仕組みや病期分類については、乳がんとは(基礎知識)もあわせてご覧ください。

よくある質問(FAQ)

Q. 乳がんになりやすい人の特徴は?
年齢(40代以降)、家族歴、出産・授乳の経験がない、初産が遅い、ホルモン補充療法の使用、閉経後の肥満、飲酒習慣などが挙げられます。ただし、これらの要因があっても必ず発症するわけではなく、リスク要因を持たない方も乳がんになることがあります。

Q. 家族に乳がんの人がいると自分もなりやすい?
母・姉妹・娘といった一等親に乳がんの方がいる場合、リスクは約1.5〜2倍になるとされています。特にBRCA1/2遺伝子変異が疑われる場合は、遺伝カウンセリングが勧められることがあります。

Q. 乳がんになりにくい人はいる?
適度な運動習慣、健康的な体重の維持、授乳の経験などは、乳がんリスクを下げる可能性が報告されています。ただし「なりにくい」ことは「ならない」ことを意味しないため、年齢に応じた検診は受けることが大切です。

Q. 乳がんは何歳が一番多い?
日本人女性では40代後半〜50代前半に発症のピークがあり、欧米よりも約10歳若い傾向があります。ただし20〜30代や高齢での発症もあります。

Q. 制汗剤やデオドラントで乳がんになる?
これまでの疫学研究では、制汗剤・デオドラントの使用と乳がんの因果関係は確認されていません。通常の使用で心配する必要はないと考えられています。

Q. 乳がんはどのようにして発生する?
乳腺の細胞の遺伝子に傷(変異)が長年かけて蓄積し、細胞の増殖を促す遺伝子と抑える遺伝子のバランスが崩れることで発生します。一度の大きな変異ではなく、複数の変異が段階的に積み重なって進行します。

Q. 「乳腺が多い」と言われたら乳がんになりやすい?
マンモグラフィで乳腺が白く密に写る「高濃度乳房(デンスブレスト)」のことで、脂肪性乳房の方と比べて乳がんの発症リスクが高いことが知られています。また、マンモグラフィではがんが見つかりにくい面もあります。日本人女性は欧米の女性と比べて高濃度乳房の割合が高く、決してめずらしい状態ではありません。

参考文献・出典
  1. 日本乳癌学会『患者さんのための乳がん診療ガイドライン2023年版』 jbcs.xsrv.jp
  2. 国立がん研究センター がん情報サービス「乳がんについて」 ganjoho.jp

※ 本記事は上記の公的機関・学会等の情報をもとに、慶應義塾大学医学部 乳腺外科 林田哲 教授が監修しています。最終確認:2026-08-22

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