乳がん検診、マンモグラフィーと超音波検査、どちらを受けたらよいですか?
乳がん検診を受ける際の選択
「マンモグラフィー乳房をX線で撮影する検査です。乳房を透明な板で挟んで薄く広げた状態でX線を当て、乳房の内部を画像化します。乳がんの早期発見に広く使われています。と超音波、どちらを受ければいいですか?」という質問は本当によくお聞きします。自治体から届く検診病気の症状がない健康な人が、早期に病気を見つけるために受ける検査のことです。定期的に受けることで、乳がんなどの病気を早い段階で発見できます。の案内にはマンモグラフィーと書いてあるけれど、知人からは「超音波のほうがいいらしい」と聞いた。あるいは、以前マンモグラフィーを受けたときの痛みがつらくて、できれば超音波だけで済ませたい。そんなさまざまな思いを皆様お持ちです。
実はこの問いに対する答えは、すべての方に共通する「正解」が一つあるわけではないのです。年齢、乳房の状態、家族歴、過去の検査結果など、いくつかの要素を組み合わせて初めて、その方にとって最も適した検査の組み立てが見えてきます。この記事では、二つの検査それぞれの仕組みと得意分野、そして限界を率直にお伝えしたうえで、どのように検査を選び、組み合わせていけばよいのかを丁寧にお話ししたいと思います。読み終えたあと、次の検診を受けるときに「自分にはこういう理由でこの検査が必要なのだ」と納得していただけるようになることを目指しています。
そもそも二つの検査は「見ているもの」が違う
マンモグラフィーと超音波検査音の波を使って乳房の内部を画像で見る検査です。放射線を使わないため被ばくの心配がなく、しこりの形や大きさを詳しく調べるのに向いています。は、どちらも乳房の中を画像で見る検査ですが、仕組みはまったく違います。この違いを知っておくと、なぜ両方の検査があり、なぜどちらか一方だけでは足りないことがあるのかが、自然にわかるはずです。
マンモグラフィーはX線、つまり放射線を使って乳房を撮影します。乳房を圧迫板マンモグラフィーで乳房を上下から挟む透明な板のことです。乳房を薄く広げることで、放射線の量を減らし、見やすい画像を作ります。という透明な板で上下または斜めからはさみ、薄く広げた状態でX線を当てて画像を作ります。X線は組織の詰まり具合によって通りやすさが違うため、乳腺組織乳房を構成する組織の一種で、乳汁を作り出す機能を持ち、出産時に活動します。X線画像では脂肪よりも白っぽく映ります。が多い部分は白っぽく、脂肪が多い部分は黒っぽく映ります。がんの組織や石灰化乳房の組織にカルシウムが沈着して、非常に小さな粒状の白い影ができることです。マンモグラフィーで白く映るため、乳がんの兆候を見つけるのに重要な手がかりになります。――カルシウムがたまったとても小さな粒――も白く映るため、正常な乳腺組織との違いを見分けることが、画像を読むうえで大切になります。
一方、超音波検査は音の波を使います。プローブ超音波検査で使う小さな機械です。これを乳房の表面に当てることで、高い周波数の音の波を乳房の中に送り、その跳ね返りを利用して画像を作ります。と呼ばれる小さな機械を乳房の表面に当て、そこから出た高い音の波が体の中の組織に当たって跳ね返ってくる様子を、その場で画像にします。放射線をまったく使わないため、被ばく放射線にさらされることです。マンモグラフィーではX線を使うため少量の被ばくがありますが、その量は非常に小さく、通常の日常生活で自然に受ける放射線よりも少ないとされています。の心配がありません。超音波は組織の境目で跳ね返りやすい性質があり、しこりの形や中の様子を見るのが得意です。液体で満たされた嚢胞乳房内に液体が溜まって作られた、袋のような構造です。超音波検査では黒く映り、固いしこりとは異なるため、区別しやすいのが特徴です。(のうほう)なら音の波がそのまま通りやすいため黒く映り、固いしこりなら中にいろいろな模様が見えるため、両者の違いを比較的見分けやすいのです。
このように、マンモグラフィーは「X線の通り方の違いを使って乳房全体を見る検査」であり、超音波は「音の波の跳ね返りを使って組織の細かい様子をその場で見る検査」です。見ているしくみが違うからこそ、得意なことも違い、お互いに足りないところを補い合う関係にあるのです。

マンモグラフィーが得意なこと、そしてその強み
マンモグラフィーが世界中の乳がん検診で標準の検査として使われているいちばん大きな理由は、科学的な根拠がとても多く積み重なっているからです。1960年代にアメリカで始まった大きな臨床試験新しい治療法や検査方法が実際に患者に効果があるかどうかを確かめるため、実際の医療現場で行う調査研究です。をはじめ、スウェーデン、イギリス、カナダなどで行われた複数のランダム化比較試験患者を無作為に分けて、異なる治療法や検査法を比較する最も信頼性の高い医学研究の方法です。この方法で検証されたデータは科学的根拠が非常に強いとされています。によって、マンモグラフィーによる定期的な検診が乳がんで亡くなる割合をおおよそ20〜30%下げることが何度も示されてきました。ここまではっきりと「命を救う効果」が証明されている検査は、がん検診の中でも多くはありません。
マンモグラフィーが特に力を発揮するのは、微小石灰化乳房内にあるカルシウムの非常に小さな沈着のことです。触っても分からないほど小さながんのサインで、マンモグラフィーでは白い点の集まりとして見えます。の発見です。乳がんの中には、まだしこりとして触れないとても早い段階で、乳管乳房内で乳汁を運ぶ細い通路です。非浸潤性乳管がんはこの乳管の中に限られたがんで、乳管内の石灰化として見つかることが多いです。の中に細かなカルシウムの沈着をともなうものがあります。非浸潤性乳管がん乳管の中にとどまり、周囲の組織に広がっていない、最も早い段階の乳がんです。英語ではDCISと略され、微小石灰化として発見されることが多いです。(DCIS)と呼ばれるこのタイプのがんは、乳管の中にとどまり、まわりに広がっていない、いわば「最も早い段階の乳がん」です。このような微小石灰化は、超音波検査では見つけにくいことが多いのですが、マンモグラフィーでは細かな白い点の集まりとしてはっきり映ります。つまり、マンモグラフィーは「触ってもわからないほど小さながんのサイン」を見つけることが得意なのです。
もうひとつのよい点は、乳房全体を一度に撮影できるため、検査結果を毎回同じように比べやすく、過去の画像とも比較しやすいことです。前回と今回の画像を並べて見ることで、新しく出てきた影や石灰化の変化をしっかり捉えることができます。検診は一回受けて終わりではなく、定期的に続けることで本当の力を発揮しますから、この「前との比べやすさ」はとても大きな強みです。
撮影そのものは片方の乳房につきふつう二方向から行い、かかる時間は全体で10〜15分ほどです。画像はデジタルデータとして残るため、読影医師が撮影された医療画像を専門的に見て、病気の有無や状態を判断することです。マンモグラフィーの画像を確認する医師を『読影医』と呼びます。の専門医が遠くにいても画像を送って判定してもらうことができ、二人以上で確認する体制を作りやすいという運用上のよさもあります。

マンモグラフィーの限界と、「痛み」の問題
ここまでマンモグラフィーのすぐれた点をお伝えしてきましたが、どんな場合にも完ぺきな検査ではないことも、正直にお話ししなければなりません。
いちばん大きな限界は、乳腺組織の密度が高い方、つまり「デンスブレスト高濃度乳房のことで、乳腺組織の割合が多い乳房です。X線画像で全体が白っぽく映るため、がんが背景に隠れてしまい、発見しにくくなる傾向があります。(高濃度乳房)」の方では、がんを見つけにくくなることです。先ほどお話ししたように、乳腺組織もがんもX線の画像では白く映ります。乳腺が多い乳房では画像全体が白っぽくなるため、その中にある白い病変が背景にまぎれてしまう「マスキング効果乳腺が多い乳房でマンモグラフィーを行う場合、乳腺組織も病変も白く映ることで、病変が周囲に紛れて見えにくくなる現象です。雪の中の白いうさぎを見つけるのが難しいのと似ています。」が起こります。雪の中に白いうさぎがいるようなもの、と考えるとイメージしやすいかもしれません。日本人女性は欧米の女性に比べて高濃度乳房の割合が高いとされており、特に40代以下の方ではその傾向が目立ちます。このため、マンモグラフィーだけに頼ると見落としが起こる可能性があることを知っておく必要があります。
もうひとつ、多くの方が気にされるのが、乳房をはさむことによる痛みです。マンモグラフィーでは乳房を板ではさんでできるだけ薄くすることで、放射線の量を減らし、組織の重なりを少なくして見やすい画像を作ります。この圧迫によって強い痛みを感じることがあり、「もう二度と受けたくない」とおっしゃる方もいます。痛みの感じ方には大きな個人差があり、月経前で乳房が張っている時期に受けると、さらに強く感じやすい傾向があります。
ただし、最近はこの問題への工夫も進んでいます。検査を受ける時期として、月経が始まって7〜10日ごろの、乳房の張りが少ない時期を選ぶだけでも、痛みがかなり軽くなることがあります。また、最近広がっている機器の中には、これまでより柔らかい圧迫パッドを使うものや、圧迫の強さを自動で調整する機能を持つものもあります。さらに検査技師に「痛みが心配です」と前もって伝えていただければ、圧迫の具合を調整しながら撮影してもらえることがほとんどです。痛みへの不安から検診そのものを避けてしまうほうが、長い目で見るとリスクは大きいですから、遠慮せずに相談していただきたいと思います。
加えて、マンモグラフィーでは少しですがX線による被ばくがあります。一回の検査で受ける放射線の量は片方の乳房あたり約1〜3ミリグレイ放射線の量を測定する単位です。マンモグラフィー一回で受ける放射線量は片方の乳房あたり約1~3ミリグレイほどで、健康に大きな影響を与えない非常に小さな量です。ほどで、これはふだんの生活で自然界から受ける放射線と比べても、とても小さな量です。検診で得られる利益と比べれば、被ばくによる健康へのリスクはきわめて低いと考えられていますが、妊娠中や妊娠している可能性がある場合には避けるのが基本です。

マンモグラフィーの得意なことと限界が見えてきました。では、もうひとつの検査である超音波検査には、どのような強みがあるのでしょうか。次回は、マンモグラフィーとは違う方法で乳房を観察する超音波検査の魅力と、その力を発揮しやすい場面についてお話しします。
📖 乳がん検診、マンモグラフィーと超音波検査、どちらを受けたらよいですか?(1/3)