抗がん剤の吐き気はいつまで続く?──出やすい人・出ない人の違いと、吐き気止めが効かないときの対処法を乳腺外科医が解説

朝の食卓で吐き気止めの錠剤を水で飲む、ヘッドスカーフをつけた女性

乳がんの抗がん剤治療で中心になるアントラサイクリン系(AC・EC療法)は、吐き気の出やすさが最も強い区分に分類される薬ですが、現在は抗がん剤を点滴する前から複数の吐き気止めを組み合わせて使うのが標準になっており、実際に嘔吐までいたる方は非常に少なくなっています。

この「最も強い区分」は、高度催吐性リスク(HEC:High Emetic Risk)と呼ばれます。吐き気止めを使わなければ90%以上の方が嘔吐する薬の区分で、乳がんのアントラサイクリン系のほか、肺がんや胃がん、食道がん、婦人科がんなどで使うシスプラチンも同じ区分に入ります。このように吐き気の出やすさは、がんの種類ではなく、使う薬の種類で決まります。

抗がん剤の吐き気の出やすさは4段階:最小・軽度(LEC)・中等度(MEC)・高度(HEC)の階段と、乳がんで使う薬の位置。アントラサイクリン系(AC・EC)はシスプラチンと同じ高度の段

それだけ対策が進んだ今でも、吐き気は治療前に最も心配される副作用のひとつです。この記事では、乳がんの治療を例にしながら、高度催吐性の薬を中心に、外来で繰り返し尋ねられる3つの問いに順に答えます。いつからいつまで続くのか。なぜ出る人と出ない人がいるのか。そして、吐き気止めが効かなかったときに何が残っているのか、です。内容の大部分は、他のがんで同じ区分の薬を使う方にもそのまま当てはまります。

この記事の要点

  • 抗がん剤の吐き気とは:抗がん剤が腸や脳の受容体を刺激して起こる反応で、強さはがんの種類ではなく使う薬の種類で決まります。吐き気止めなしでは90%以上が嘔吐する薬を高度催吐性リスク(HEC)と呼び、乳がんのアントラサイクリン系(AC・EC)やシスプラチンがこれに当たります
  • 注意すべき期間は2つあります。点滴当日(急性)と2〜5日目(遅発性)で、多くは1週間以内に落ち着きます
  • 吐き気が出ないことは珍しくなく、薬が効いていない証拠ではありません
  • 吐き気止めが効かないときは、我慢するのではなく次の薬に切り替える余地があります
目次

吐き気はいつから・いつまで続くか

抗がん剤による吐き気(医療者は嘔気・悪心と呼びます)には、出る時期によって3つの型があります。この3つを分けて考えると、「いつまで」の答えがはっきりします。

急性の吐き気は、点滴を始めてから24時間以内に起こります。抗がん剤が腸の粘膜を刺激してセロトニンという物質が放出され、それが脳の嘔吐中枢に伝わって起こる吐き気です。点滴の前に使う吐き気止めが最もよく効くのが、この型です。

遅発性の吐き気は、点滴の翌日から5日目ごろまでに起こります。点滴当日は平気だったのに、3日目あたりから気持ち悪さが続く、というのがこの型の典型です。急性とは別の仕組み(サブスタンスPという物質)が関わっており、当日に効いた吐き気止めだけでは抑えきれないことがあります。高度催吐性の薬で患者さんが最もつらいと感じるのは、この遅発性の時期です。アントラサイクリン系(AC・EC)でもシスプラチンでも、この点は共通しています。

予期性の吐き気は、次の点滴の前から起こります。前回の治療で強い吐き気を経験すると、病院の匂いや点滴室の景色だけで気持ち悪くなることがあります。これは気持ちの弱さではなく、体が学習した反射です。最初のサイクルで吐き気をしっかり抑えることが、この型を防ぐ最も確実な方法になります。

まとめると、高度催吐性の薬の吐き気は、点滴当日に一度、2〜5日目にもう一度山があり、多くの方は1週間以内に食事が戻ります。次の点滴までの残りの期間は、吐き気に関しては比較的落ち着いた時期です。乳がんのアントラサイクリン系(AC・EC)は3週間ごとの点滴が基本なので、1週間の山のあとに2週間の落ち着いた時期が続く、というリズムになります。

回数を重ねるとどうなるか

「回数を重ねるごとに副作用が強くなる」と言われることがありますが、吐き気については一様ではありません。初回の吐き気止めの組み合わせで十分に抑えられた方は、2回目以降も同じように経過することが多いです。ただし、予期性の吐き気は2回目以降に生じることが多いため、その兆候があれば、次回は点滴の前に吐き気止めや気持ちを落ち着ける薬を使うことがあります。

飲み薬の抗がん剤・分子標的薬の吐き気は点滴の抗がん剤とは異なります

TS-1、ゼローダのような飲み薬は、点滴のような「山」を作りません。飲み始めの数週間にむかつきや軽い吐き気が続き、体が慣れるとともに2〜3か月で落ち着いてくる、という経過が一般的です。食後に服用する、脂っこいものを控える、といった工夫で和らぐことが多く、続くようであれば、減量や吐き気止めの併用、症状によっては胃薬の使用を主治医と相談します。ベージニオ(アベマシクリブ)による吐き気は、下痢に伴う症状であることが多く、下痢止めの内服方法の調整や減量・中断で対応していきます。

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吐き気が出やすい人・出ない人──「出ないと効いていない」は誤解

同じ高度催吐性の薬を、同じ吐き気止めと一緒に使っても、吐き気の出方には大きな個人差があります。これまでの研究で、吐き気が出やすいことがわかっている要因は次のとおりです。

  • 女性、そして50歳未満の方
  • つわりが重かった方、乗り物酔いしやすい方
  • ふだんお酒をほとんど飲まない方(飲酒習慣のある方は吐き気が出にくい傾向があります)
  • 前回の抗がん剤治療で吐き気が強かった方
  • 治療への不安が強い方、睡眠不足の方

乳がんの患者さんは女性が大多数で、比較的若い方も多いため、他のがんに比べて吐き気が出やすい条件がそろいやすい、というのが実情です。だからこそ、高度催吐性の薬では最初から最も手厚い組み合わせの吐き気止めを使います。乳がんのアントラサイクリン系(AC・EC)も例外ではありません。

抗がん剤の吐き気が出やすい人:女性・50歳未満、つわりが重かった、乗り物酔いしやすい、お酒をほとんど飲まない、前回強かった・不安が強い

一方で、吐き気がまったく出ない方も珍しくありません。ここで多くの方が心配されるのが、「副作用が出ないということは、薬が効いていないのではないか」という点ですが、これは誤解です。吐き気は抗がん剤が腸や脳の受容体を刺激して起こる反応であり、がん細胞に薬が効いているかどうかとは別の仕組みです。吐き気止めがよく効いて副作用が抑えられている状態は、治療がうまく進んでいる状態そのものです。

薬別の「吐き気の出やすさ」早見表

冒頭で触れた「高度」を含め、吐き気の出やすさは薬ごとに「高度」「中等度」「軽度」「最小」の4段階に分類されています(催吐性リスク分類)。薬ごとの分類なので、乳がんで使う薬も、他のがんで使う薬も、同じ表の上に並びます。ご自身の治療がどの段階かを知っておくと、「なぜこの吐き気止めが出ているのか」がわかります。

出やすさ(催吐性リスク)乳がんで使う主な薬他のがんで使う代表的な薬標準的な吐き気止めの組み合わせ
高度(HEC)(吐き気止めなしでは90%以上に嘔吐)アントラサイクリン系(AC・EC療法)、dose-dense ACシスプラチン(肺・胃・食道・頭頸部・婦人科がん)5-HT3受容体拮抗薬+NK1受容体拮抗薬+デキサメタゾン+オランザピンの4剤
中等度(MEC)(30〜90%)TC療法、ADC(エンハーツ、トロデルビ、ダトロウェイ)、カルボプラチン併用療法オキサリプラチン(大腸がん)、イリノテカン、カルボプラチン(肺・卵巣がん)5-HT3受容体拮抗薬+デキサメタゾン(薬によりNK1受容体拮抗薬を追加)
軽度(LEC)(10〜30%)ドセタキセル単剤、パクリタキセル、ゲムシタビン、エリブリン、カドサイラペメトレキセド、5-FU系デキサメタゾンまたは5-HT3受容体拮抗薬の単剤
最小(10%未満)ベージニオ・イブランス、キイトルーダ(ペムブロリズマブ)、ハーセプチン・パージェタ、ホルモン療法薬免疫チェックポイント阻害薬の多く原則として前もっての吐き気止めは不要

表を見てわかるとおり、高度催吐性(HEC)に入るのは、乳がんではアントラサイクリン系(AC・EC)、他のがんではシスプラチンが代表です。この区分の薬には、吐き気止めを最も手厚く組み合わせます。逆に、ホルモン療法や、ハーセプチンのような従来の抗HER2薬の単独使用で強い吐き気が出ることはまれです。ただし近年は、中等度の区分でありながら実際には吐き気が長く続く薬が増えています。その代表がADCです。

乳がんの患者さんから特に質問が多い薬について補足します。

ADC(エンハーツ・トロデルビ・ダトロウェイ)の吐き気は「中等度」でも軽くない

ADC(抗体薬物複合体)は、がん細胞を見分ける抗体に、強力な抗がん剤(ペイロード)を結びつけた薬です。乳がんでは、HER2陽性・HER2低発現に使うエンハーツ(トラスツズマブ デルクステカン)、トリプルネガティブやホルモン受容体陽性に使うトロデルビ(サシツズマブ ゴビテカン)、ホルモン受容体陽性に使うダトロウェイ(ダトポタマブ デルクステカン)が承認されています。いずれも高い効果が示された一方で、吐き気が最も多い副作用のひとつです。

ADCの吐き気の特徴は、点滴当日よりも翌日以降にだらだらと続くことです。運ばれる抗がん剤の成分がイリノテカンと同じ系統のため、遅発性の吐き気が出やすく、催吐性リスクの分類上は「中等度」でも、患者さんの実感としてはアントラサイクリン系に近いという声を外来でよく聞きます。しかも、ADCは進行・再発の治療で数か月から年単位で続けることが多く、吐き気を抑えられるかどうかが治療を続けられるかどうかに直結します。

このため、エンハーツでは中等度の薬であっても、最初は高度催吐性に分類される薬剤と同等の対応で臨むことが多く、日本の臨床試験ではさらにオランザピンを上乗せすると翌日以降の吐き気が減ることが報告されています。トロデルビとダトロウェイについても同じ考え方で、初回から手厚い吐き気止めを組み合わせます。「中等度と聞いたのに、思ったよりつらい」と感じたときは、我慢せずに次の一手(後述)を主治医に相談してください。

ベージニオ(アベマシクリブ)は、下痢が前面に出る薬ですが、これに伴ってむかつきを訴える方もいます。前述のとおり下痢が落ち着くと吐き気も落ち着くことが多く、点滴の抗がん剤ほど強くはなりません。

キイトルーダ(ペムブロリズマブ)そのものの吐き気は最小の区分ですが、トリプルネガティブ乳がんでは抗がん剤と組み合わせて使うため、実際に感じる吐き気は併用する抗がん剤(カルボプラチン、パクリタキセル、アントラサイクリン系)によるものです。

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吐き気止めの基本──「出てから」ではなく「出る前に」

吐き気止めの使い方で最も重要な原則は、吐き気が出てから飲むのではなく、出る前に使っておくことです。いったん強い吐き気が起きてしまうと、抗がん剤治療自体に後ろ向きになってしまう方もいらっしゃいます。高度催吐性の薬では、次の4種類を組み合わせるのが現在の標準です。中等度の薬では、このうち2〜3種類を使います。

5-HT3受容体拮抗薬(グラニセトロン、パロノセトロンなど)は、吐き気止めの土台になる薬です。急性の吐き気を抑える中心で、点滴の直前に投与します。パロノセトロンは効果が長く続くため、遅発性の吐き気にも効果が期待できます。

NK1受容体拮抗薬は、遅発性の吐き気を抑える薬です。飲み薬のアプレピタント(点滴当日と翌日・翌々日の3日間服用)と、点滴当日に1回だけ投与するアロカリス(ホスネツピタント)があります。アプレピタントはかつて「イメンド」という先発品の名前で知られていましたが、現在は同じ成分の後発品が主に使われています。

デキサメタゾン(デカドロン)は、ステロイドの一種で、単独でも他の薬と組み合わせても吐き気を抑える働きがあります。点滴当日から数日間、飲み薬で続けることが多い薬です。「ステロイド」と聞いて不安になる方がいますが、短期間の使用で長期的な問題が起こることはまれです。

オランザピンは、もともと精神科の薬として使われてきた薬で、2017年から抗がん剤の吐き気止めとしても承認されています。上の3剤に加えることで、特に遅発性の吐き気が抑えられることが臨床試験で示されており、高度催吐性の薬では4剤目として使うのが標準になりました。詳しくは次の章で扱います。

これらの薬は「点滴で入るもの」と「家で飲むもの」に分かれます。点滴当日は病院で5-HT3受容体拮抗薬とデキサメタゾン(施設によってはNK1受容体拮抗薬も)を点滴し、当日または翌日から数日間は自宅でアプレピタント、デキサメタゾン、オランザピンを飲むという流れが多いです。ここで大切なのは、翌日以降の飲み薬を「気持ち悪くないから」と自己判断でやめないことです。遅発性の吐き気は、飲み薬でこそ抑えられます。

4剤の吐き気止め(5-HT3受容体拮抗薬・NK1受容体拮抗薬・デキサメタゾン・オランザピン)が点滴当日から4日目までの吐き気を傘のようにふさぐ役割分担の図

慶應義塾大学病院では、高度催吐性に分類される抗がん剤を使用する場合には、以下の4種類の吐き気止めを併用しています。

  1. 5-HT3受容体拮抗薬であるパロノセトロン(アロキシ)を当日点滴
  2. デキサメタゾンを当日点滴+翌日から3日間内服
  3. アプレピタントを当日から3日間内服
  4. オランザピンを当日から4日間内服

不安が強く予期性の吐き気が心配される方には、点滴の前夜や当日に気持ちを落ち着ける抗不安薬(ロラゼパムなど)が一時的に処方されることがあり、予期性の吐き気を抑える効果が知られています。

吐き気止めが効かないとき──残っている手

標準の組み合わせを使っても吐き気が残ることはあります。そのとき最も避けていただきたいのは、「みんな我慢しているのだろう」と黙って耐えることです。吐き気は、調整できる副作用です。

まず、いつ・どのくらい吐き気があったかを主治医に伝えてください。「点滴の翌日から3日間、食事が半分しか入らなかった」「吐きはしなかったが4日目までむかつきが続いた」といった情報があれば、どの型の吐き気が抑えきれていないかがわかります。遅発性の吐き気が残っているなら、翌日以降の飲み薬が不足している可能性があります。

そのうえで、次のような選択肢があります。

  • オランザピンの追加(まだ使っていない場合)。遅発性の吐き気に対して最も効果の大きい追加薬です
  • メトクロプラミド(プリンペラン)やドンペリドン(ナウゼリン)の頓用。気持ち悪くなったときに追加で飲む薬として処方されます
  • デキサメタゾンの日数の調整。飲む日数を延ばすことで遅発性の吐き気が抑えられることがあります
  • 次のサイクルからの組み合わせの見直し。5-HT3受容体拮抗薬をパロノセトロンに変える、NK1受容体拮抗薬をアロカリスに変える、ADCなど中等度の薬でもNK1受容体拮抗薬やオランザピンを加えて高度催吐性と同じ組み合わせに引き上げる、など
  • 吐き気以外の原因の確認。便秘、胃の不調、電解質の乱れ、不安などが吐き気を強めていることがあり、それぞれに別の対処があります

市販の吐き気止めや酔い止めを自己判断で足すことは避けてください。成分が処方薬と重なることがあり、眠気やふらつきが強く出ることがあります。追加したい場合は、必ず主治医か薬剤師に相談してください。

次のような場合は、次の外来を待たずに連絡してください

  • 24時間以上、水分もほとんど取れない
  • 嘔吐が1日に何度も続く
  • 尿の量が明らかに減った、めまいや立ちくらみがある
  • 吐いたものに血が混じる

脱水は点滴で速やかに改善できます。無理に自宅で乗り切ろうとしないでください。

オランザピンを処方されたら

オランザピンを処方された方が薬の説明書を見て、「統合失調症」「双極性障害」という言葉に驚いて外来で尋ねられることがよくあります。オランザピンは確かにもともと精神科の薬ですが、吐き気に関わる複数の受容体を同時に抑える働きがあるため、2017年に抗がん剤による吐き気・嘔吐に対する薬として国内で承認されています。精神科の病気に対する使い方とは用量も期間もまったく違います。

飲み方は、点滴当日から通常4日間、1日1回、夕食後または就寝前に服用します。

夕食後または就寝前にする理由は、この薬の主な副作用が眠気とふらつきだからです。翌朝まで眠気が残ることがあるため、服用中は車の運転を控えてください。高齢の方ではふらつきによる転倒に注意が必要です。

糖尿病のある方には使えません。オランザピンは血糖を上げることがあり、糖尿病の方には使用できない薬です。糖尿病の診断を受けている方、血糖が高いと言われたことがある方は、処方前に必ず主治医に伝えてください。糖尿病の方には、オランザピンを使わない組み合わせで吐き気を抑える方法が別に検討されます。

オランザピンの効果については、2026年にも複数の臨床試験をまとめた解析が発表され、標準の吐き気止めに上乗せすることで吐き気・嘔吐がさらに抑えられたと報告されています。5mgという少ない量でも十分な効果があり、眠気は10mgより少ないことが日本の臨床試験で示されており、国内では5mgが標準になっています。

生活の工夫──食事は「食べられるものを、食べられるときに」

吐き気が強い時期の食事は、栄養バランスよりも「口にできること」を優先して構いません。要点は次のとおりです。

  • 温かい食事は匂いが立ちやすく吐き気を誘うため、冷たいもの・のど越しのよいものを選ぶ
  • 少量ずつ回数を分けて食べる。空腹も吐き気を強めるので、何も食べない時間を長く作らない
  • 食後すぐに横にならず、30分ほど座って過ごす
  • 調理の匂いを避ける。この時期だけは市販の惣菜や冷凍食品に頼ってよい
  • 水分は一度に多く飲まず、氷を口に含む、少量を頻回に

時期ごとの食事の工夫と、食べやすい具体的なメニューは、別の記事に詳しくまとめています。

抗がん剤の味覚障害はいつまで続く?──原因・対処法と食事の工夫あわせて読みたい抗がん剤の味覚障害はいつまで続く?──原因・対処法と食事の工夫→

乳腺外科の外来で、初回の点滴前に伝えていること

乳がんでアントラサイクリン系(AC・EC)を始める方に、初回の点滴の前に私が外来で必ず伝えていることは次の4点です。高度催吐性の薬を使う方であれば、がんの種類を問わず同じことが当てはまります。

  1. 吐き気は「我慢する副作用」ではなく「調整する副作用」です。抑えきれなかったときは、次回までに必ず組み合わせを変えます。そのために、初回の経過をメモに残すなどして、正確に教えてください。
  2. 処方された吐き気止めの飲み薬を自己判断でやめないでください。気持ち悪くないのは薬が効いているからです。
  3. 吐き気が出なくても、薬が効いていないわけではありません。副作用の強さと治療効果は別のものです。
  4. 食事や水分がまったく取れなくなったら、次の外来を待たずに連絡してください。脱水は点滴で改善を図ることができます。

吐き気の治療はこの10年で大きく進歩しました。「抗がん剤=ひどい吐き気」というイメージは、オランザピンやアロカリスといった新しい薬が使えるようになる前のものです。今は、高度催吐性の薬であっても、多くの方が吐き気をほとんど感じずに治療を終えています。

まとめ

  • 吐き気の強さは薬の種類で決まります。吐き気止めなしでは90%以上が嘔吐する高度催吐性(HEC)の薬でも、4剤の吐き気止めを前もって使うことで、多くの方は嘔吐せずに治療を続けられます。乳がんではアントラサイクリン系(AC・EC)がこの区分に当たります。
  • 注意すべき期間は点滴当日と2〜5日目の2つ。多くは1週間以内に落ち着きます。
  • 女性・若年・つわりや乗り物酔いの経験・非飲酒・不安の強さは出やすさの要因です。出ない人も珍しくなく、効果とは無関係です。
  • 効かないときは、オランザピンの追加、頓用薬、日数の調整、次サイクルからの見直しがあります。黙って耐える必要はありません。
  • オランザピンは精神科の薬ではなく「吐き気止め」として承認された薬です。夕食後または就寝前に服用し、糖尿病の方は使えません。

よくある質問

Q. 抗がん剤の吐き気(気持ち悪さ)はいつまで続きますか?

A. 点滴の抗がん剤では、点滴当日(急性)と2〜5日目(遅発性)に山があり、多くの方は1週間以内に落ち着きます。高度催吐性の薬(乳がんのアントラサイクリン系、シスプラチンなど)では、翌日以降に続く遅発性の吐き気が中心で、飲み薬の吐き気止めを数日間続けることで抑えます。エンハーツやトロデルビなどのADCも同様に翌日以降の吐き気が中心で、初回から手厚い吐き気止めを組み合わせます。飲み薬の抗がん剤や分子標的薬では、飲み始めの数週間から2〜3か月で慣れてくる経過が一般的です。

Q. 吐き気がまったく出ません。薬が効いていないのでしょうか?

A. 効いていないわけではありません。吐き気は抗がん剤が腸や脳の受容体を刺激して起こる反応で、がん細胞への効果とは別の仕組みです。吐き気止めがよく効いている、または体質的に出にくい、というだけです。副作用の軽さを理由に治療効果を心配する必要はありません。

Q. イメンドが販売中止と聞きました。吐き気止めはどうなりますか?

A. イメンドは先発品の名前で、同じ成分のアプレピタントが後発品として引き続き使われています。薬の効果は同じです。さらに、点滴当日に1回投与するだけで済むアロカリス(ホスネツピタント)という点滴の薬もあり、飲み薬が負担な方にはこちらが選ばれることもあります。

Q. 嘔吐恐怖症があり、抗がん剤治療がとても怖いです。

A. 事前に主治医や看護師に伝えてください。吐き気止めを最初から手厚い組み合わせにする、予期性の吐き気を抑える抗不安薬を併用する、初回を入院で行うなど、恐怖症のある方に合わせた対応が可能です。現在の吐き気止めでは、高度催吐性の薬でも実際に嘔吐までいたる方は少数です。「怖い」と伝えること自体が、治療の一部です。

Q. 家族が自宅で吐いたとき、どう対応すればよいですか?

A. まず水分を少量ずつ取れるか確認し、頓用の吐き気止めが処方されていれば使ってください。点滴後48時間ほどは吐いたものに抗がん剤の成分が含まれることがあるため、処理の際は使い捨て手袋を使い、ビニール袋を二重にして捨ててください。24時間以上水分が取れない、嘔吐が何度も続く場合は、病院に連絡してください。

Q. 放射線治療でも吐き気は出ますか?

A. 乳房や胸壁への放射線治療で強い吐き気が出ることはまれです。放射線による吐き気は主にお腹や脳など別の部位に照射する場合の話で、乳がんの放射線治療で日常生活に加わる制限は限られています。

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参考文献・出典
  1. 日本乳癌学会『患者さんのための乳がん診療ガイドライン2023年版』 jbcs.xsrv.jp
  2. 国立がん研究センター がん情報サービス「吐き気・嘔吐」 ganjoho.jp
  3. 国立がん研究センター がん情報サービス「薬物療法」 ganjoho.jp

※ 本記事は上記の公的機関・学会等の情報をもとに、慶應義塾大学医学部 乳腺外科 林田哲 教授が監修しています。最終確認:2026-09-18

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