乳がん 病理結果の読み方
乳がんと診断されると同時に、外来で詳しい説明がありますが、これは病理診断レポート病理医という専門医が、採取した組織を顕微鏡で詳しく調べて、がんの性質をまとめた報告書のことです。がんがどんな特徴を持っているかを知るために最も大切な資料になります。を用いて説明が行われることが多いです。しかしこれは専門用語やアルファベット、数字が並んでいるため、適切な説明がなければ普通は理解できませんし、最初に目にすると戸惑う方が少なくありません。
この病理レポートについて、すべてを理解する必要はありません。押さえるべき大事なポイントは4つありますが、これさえ知っておけば、ご自身の乳がんの性格がざっくりと見えてきます。
病理レポートは「怖い宣告書」ではなく、これからの治療を組み立てるための設計図病理レポートを比喩的に表現した言葉で、これからの治療計画を立てるための基本となる情報という意味です。主治医がこの情報をもとに、患者さんに最適な治療を組み立てていきます。です。設計図が読めれば、主治医の考えに対する理解もぐっと深まります。今回は最初に乳がんと診断される際のほとんどに利用される針生検体の一部から組織や細胞を採取して、顕微鏡で詳しく調べる検査のことです。細い針を使って少量の組織を取る方法が針生検で、確定診断を得るために行われます。の病理診断レポートの読み方について解説いたします。
病理診断レポートって何?
病理診断レポートとは、「病理医組織を顕微鏡で詳しく調べ、がんの性質や悪性度を診断する医師のことです。患者さんが直接診察を受けることはありませんが、治療方針を決めるために非常に重要な役割を果たします。」と呼ばれる専門医が、乳房から採取した組織を顕微鏡で観察し、がんの性質を詳しくまとめた報告書のことです。生検(針で組織を少しだけ取る検査)の場合はおよそ1〜2週間、手術で取り出した組織の場合は3〜4週間ほどで結果が届くことが多いです。

レポートには専門的な項目がずらりと並んでいますが、書かれている内容は要するに「あなたのがんがどんな性格をしているか」という情報です。性格が分かれば、それに合った治療を選ぶことができ、だからこそ「設計図」と呼べるのですね。
針生検の病理診断レポートについては、全項目を理解する必要はまったくありません。大事なのは、これからお話しする4つだと考えてください。
ここだけ見れば大丈夫──4つのポイント
【4つのポイント早見表】
① タイプ:浸潤しているか、していないか
② 核異型度顕微鏡でがん細胞を見たときに、正常な細胞からどれだけ形が違うかを1~3の段階で評価したものです。数字が大きいほど異常さが強く、がんとしての悪性度が高いことを意味します。:がん細胞を顕微鏡で見たときの顔つきの悪さ
③ ホルモン受容体がん細胞の表面にある『鍵穴』のようなもので、女性ホルモンが結合できる部位です。この受容体が陽性であれば、ホルモン療法という飲み薬が効果的に機能する可能性があります。とHER2がん細胞の増殖に関わるタンパク質で、この値が陽性の場合は『抗HER2療法』という強力な治療薬が使用できます。現在はHER2陽性であっても非常に効果的な治療法が開発されています。:どんな薬が効くか
④ Ki-67がん細胞がどのくらい活発に増えているかをパーセンテージで示す指標です。数字が高いほど細胞が速く分裂して増殖しており、通常は化学療法(抗がん剤)がよく効くことが多いです。:がんが増えるスピードはどのくらいか
この4つを順番に見ていきましょう。

① タイプ──浸潤しているか、していないか
病理レポートの最初のほうに「浸潤性がん細胞が乳管の壁を破って周囲の組織に広がっている状態のことです。血管やリンパ管へのアクセスがあるため、他の場所への転移の可能性があり、手術に加えて薬物療法が必要になります。(しんじゅんせい)」あるいは「非浸潤性がん細胞が乳管の内側にとどまっていて、周囲の組織には広がっていない状態のことです。理論上は転移の可能性が低いため、手術による切除が主な治療となります。(ひしんじゅんせい)」という言葉が出てきます。これはがん細胞がどこまで広がっているかを示す、もっとも基本的な情報です。
簡単にイメージしやすいたとえとしては、乳管(ミルクの通り道)を「コンクリートでできた土管」だと思ってください。非浸潤がん(DCIS非浸潤がんの医学的な名称で、Ductal Carcinoma In Situの略です。乳管の内側だけにがん細胞がとどまっている状態を指します。)は、がん細胞がまだ土管の内側にとどまっている状態です。コンクリートの外側には転移がん細胞が、もともとあった場所から血管やリンパ管を通じて、体の別の場所に移動して増殖することです。リンパ節や肺、骨など様々な場所に転移する可能性があります。に関連する血管やリンパ管が存在しているのですが、コンクリートの壁を破って外にはでていないので、ほかの場所へ転移を起こす可能性は理論上はないと考えられており、外科的な切除が基本となります。

一方、浸潤がんは、がん細胞がコンクリートの壁を破って土管の外へ漏れ出した状態です。漏れ出したからといってすぐに遠くへ広がるわけではありませんが、手術に加えて薬物療法抗がん剤やホルモン療法など、化学的な物質を使ってがんを治療する方法の総称です。手術や放射線治療と組み合わせて行われることが多いです。が必須になるため、治療の計画が大きく変わってきます。乳がん全体のおよそ7〜8割は「浸潤性乳管がん」というタイプで、もっとも多い形です。
② 核異型度
核異型度(neuclear grade)は、場合によっては組織学的異型度核異型度と同じ意味で、顕微鏡で見たがん細胞の異常さを評価する指標です。欧米では核異型度の代わりにこちらの用語が使われることが多くあります。(histological grade)で代用されることがあります。欧米では後者を用いるのが一般的ですが、どちらもがん細胞を顕微鏡で見たときの「顔つきの悪さ」だと考えてください。核異型度は1から3まであり、1が良い顔つきで3が最も悪い顔つきです。がんというのは全て悪性腫瘍なので、悪いものなのですが、その中にも悪さの程度があるということです。

③ サブタイプを決める3つの検査
ここは少し聞き慣れない言葉が出てきますが、とても大事なところです。レポートにはホルモン受容体である「エストロゲン受容体ホルモン受容体の一種で、女性ホルモンのエストロゲンが結合する部位です。ERと略され、これが陽性であればホルモン療法による治療が有効な可能性があります。(ER)」と「プロゲステロン受容体ホルモン受容体のもう一種で、女性ホルモンのプロゲステロンが結合する部位です。PgRと略され、エストロゲン受容体と同様にホルモン療法の有効性を判定するのに使われます。(PgR)」および「HER2(ハーツー)」という3つの検査結果が載っています。
ホルモン受容体とは、がん細胞の表面にある「鍵穴」のようなものです。ERとPgRの2種類があり、どちらかが陽性であれば、ホルモン療法に分類される飲み薬が有効に働く可能性があります。日本人の乳がんでは、およそ7割がホルモン受容体陽性といわれています。
もうひとつのHER2は、がん細胞の増殖にかかわるタンパク質です。これが陽性の場合は、抗HER2療法という強力な薬が使えます。かつてはHER2陽性というだけで治療が難しいと考えられた時代もありましたが、現在は非常に効果の高い薬が次々と開発されています。
この2つの検査の組み合わせによって、あなたのがんが「4つのサブタイプホルモン受容体とHER2の検査結果の組み合わせによって分類される、乳がんのタイプのことです。同じ乳がんでもサブタイプが異なると性質や治療法が大きく変わります。」のうちどれに当てはまるかが決まります。サブタイプについては後述いたしますし、BCWiseの中にも詳しい解説記事がありますので、参照してください。
④ Ki-67──増えるスピード
Ki-67(ケーアイろくじゅうなな)とは、がん細胞がどのくらい活発に増えているかをパーセントで示したものです。数字が高いほど細胞分裂が盛んで、増えるスピードが速いことを意味します。
増殖が活発ながんは、化学療法抗がん剤を使ってがん細胞を攻撃する治療方法です。がん細胞の増殖が活発な場合によく効く傾向があり、ホルモン療法や抗HER2療法と組み合わせて使われることもあります。(抗がん剤)がよく効くケースが多く、逆にKi-67が低くゆっくり増えるタイプでは、ホルモン療法を中心にじっくり治療していく方針になることが一般的です。
数字の絶対値は、施設ごとに基準が異なるといわれているので、SNSの情報などを参考に他と比較することは意味がありません。また、この数字の高低だけで治療の結果が決まるわけではありませんので、その意味は主治医と一緒に確認していただければと思います。
サブタイプ──4つのどれかに分かれる
先ほどのホルモン受容体とHER2の組み合わせで、乳がんは大きく3つのサブタイプに分類されます。
・ホルモン受容体(+)HER2(-) : 俗にルミナルタイプホルモン受容体が陽性でHER2が陰性の乳がんのタイプです。ホルモン療法を中心に治療を進めることが一般的で、比較的ゆっくり進行することが多い特徴があります。と呼ばれ、内分泌治療ホルモン療法ともいい、女性ホルモンの作用を抑える飲み薬を用いた治療です。ホルモン受容体陽性の乳がんに対して、長期間にわたってじっくり治療を続けることが特徴です。を行います
・ホルモン受容体(±)HER2(+): HER2タイプHER2が陽性である乳がんのタイプです。ハーセプチンなどの抗HER2薬が有効で、かつてより治療効果が大幅に向上しており、良好な治療成績が期待できます。とよばれ、ハーセプチンなどの抗HER2薬が使用されます
・ホルモン受容体(-)HER2(-): トリプルネガティブタイプホルモン受容体とHER2がともに陰性である乳がんのタイプです。ホルモン療法や抗HER2療法が使えないため、抗がん剤による化学療法を主に行います。と呼ばれ、主に抗がん剤が使用されます

同じ「乳がん」と診断されていても、サブタイプが違えば性格はまるで異なります。上に示されるように、ホルモン療法が中心になる方もいれば、抗HER2療法や化学療法が軸になる方もいます。
知り合いやインターネットで見た治療内容と自分の治療が違っていても、それはサブタイプが違うからであって、おかしなことではありません。それぞれの方に最も合った治療を選んでいる、と理解していただければ安心です。
主治医に聞きたい3つの質問
病理レポートの内容をすべて暗記する必要はありません。その代わり、次の外来ではぜひこの3つを主治医に聞いてみてください。メモに書いて持っていくと忘れずに済みますよ。
一つめは「私のがんはどのサブタイプですか?」です。これが分かると、今後の治療の方向性が見えてきます。
二つめは「これから決まる治療の順番はどうなりますか?」。手術が先なのか、薬物療法が先なのか、大まかな流れを聞いておくと見通しが立ちます。
三つめは「次の検査や診察はいつですか?」。スケジュールが分かるだけで、気持ちの整理がしやすくなります。

よくある不安への答え
Q. 「グレード3」と書いてあるのですが、末期ということですか?
これはよくいただく質問です。グレードとは前述の核異型度を指している言葉で、がん細胞の「顔つき」を1から3の段階で評価したもので、数字が大きいほど正常な細胞と見た目が異なっていることを意味します。進行度を示すステージがんの進行度を示す指標で、腫瘍の大きさ、リンパ節への転移の有無、遠隔転移の有無などを総合的に評価して決められます。病理レポートの数値だけでは判定できず、画像検査の結果と合わせて判定されます。とはまったく別の概念ですので、グレード3イコール末期ということではありません。
Q. 数値が悪いと、もう治療の道はないのでしょうか?
そのようなことはありません。現在の乳がん治療は非常に多くの選択肢があります。ひとつの数値だけで治療の結果が決まるわけではなく、いくつもの情報を組み合わせて最適な治療を計画していきます。
Q. 友人と治療方針が違うのですが、何か問題があるのでしょうか?
先ほどお伝えしたように、サブタイプが違えば治療が違うのは自然なことです。ほかの方と比べるよりも、ご自身のサブタイプに合った治療に集中していただくほうが大切です。
Q. レポートにステージが書かれていません。
ステージは病理レポートの情報だけでなく、CTコンピュータ断層撮影という検査で、X線を使ってスライス状の体の断面画像を撮影します。がんの進行度の評価や転移の有無を確認するために使用されます。や骨シンチグラフィー放射性物質を使って骨への転移の有無を調べる検査です。骨への転移を検出するのに優れており、ステージを判定する際に活用されることがあります。などの画像検査の結果も合わせて主治医が総合的に判断します。レポートに記載がなくても問題ありませんので、主治医の説明を待ってみてください。
最後に
病理レポートはあなたのがん治療を組み立てる「設計図」の一つであり、そこに書かれた情報をもとに主治医が治療という建物を組み立てていきます。今日お伝えした4つのポイント、すなわちタイプ、核異型度、ホルモン受容体とHER2、そしてKi-67を知っておくだけで、主治医の説明がぐっと分かりやすくなるはずです。
疑問が残ったときは、遠慮なく外来で質問してください。それが最も確実で最も早い解決策です。BCWiseでは各サブタイプごとの治療についても詳しく解説していますので、ぜひあわせてお読みいただければと思います。