乳がんの手術の際に、温存手術が難しいために全摘手術をしなければならないときに、多くの方が「再建をするかどうか」で迷います。この問いに、唯一の正解はありません。再建する人にも、しない人にも、それぞれの理由があり、どちらも尊重される選択です。ここでは、後悔なく決めるために知っておきたいことを順を追って整理します。なお、温存手術と全摘手術の選び方は、別の記事(手術の選び方)で解説しています。
乳房再建は「する・しない」から選べます
まず知っておいていただきたいのは、再建は「必ずすべきもの」ではないということです。乳房を失ったあとの過ごし方には、いくつかの選択肢があります。
再建をしない場合は、補整下着や人工乳房(パッド)で外見を自然に整える方法があります。近年は、胸を平らに保ったまま暮らす「Going Flat」という考え方も広がってきました。一方、再建を選ぶと、入浴や着替えのときの見た目、左右のバランス、衣服の選びやすさといった面で安心を感じる方も多くいます。
どちらが優れているということはありません。ご自身の生活スタイルや価値観、これからの治療計画に合うかどうかが、判断のいちばんの軸になります。

「しない」も尊重される選択です
再建をしないことは、決して「あきらめ」ではありません。手術を繰り返し受けずにすむこと、入院日数が短いこと、痛みや違和感・合併症が少ないことなど、はっきりとした利点があります。
もちろん、左右差や喪失感を感じる方もいます。しかし近年は補整下着や人工乳房の質が大きく向上し、外見の不安は以前よりも補いやすくなっています。お住まいの自治体によっては、補整具の購入費用の一部を助成する制度が設けられていることもあります。
また、一旦は再建をしないことを選んだ場合でも、術後何年経過しても、思い立った時にいつでも再建手術を行うことができます。ですから「多数派に合わせる」必要はありません。ご自身が納得できるかどうかを、いちばん大切にしてください。
再建する場合の2つの方法
再建を選ぶ場合、大きく分けて「人工物」と「自家組織」の2つの方法があります。

人工物(シリコンインプラント)
やわらかい人工の膨らみを胸に入れる方法です。多くの場合で、まず「エキスパンダー」という器具で皮膚を少しずつふくらませ、十分に伸びたところでインプラントに入れ替えます。おなかや背中に新しい傷ができず、手術の負担が比較的少ないのが利点です。一方で、周りの組織が硬くなる「被膜拘縮」などの合併症が起こることがあり、見た目の変化に影響を与える可能性があります。
自家組織(自分の脂肪・筋肉)
おなかや背中から組織を移して胸を作る方法です。背中の組織を使う方法(広背筋皮弁)や、おなかの組織を使う方法(腹直筋皮弁やDIEP皮弁)などがあります。自分の組織を使うため、自然なやわらかさや温かみが得られやすいのが特徴です。ただし手術時間が長く、入院も長めになります。組織を採取した部分に大きな傷や、筋力の低下などの負担が残る点も、あらかじめ理解しておきたいところです。
どちらの方法にも良い面と気をつけたい面があり、優劣ではなく「相性」で考えるものです。体型や年齢、これからの治療、仕事復帰の時期などをふまえ、形成外科医に希望を伝えて相談することが大切です。
乳房の「残し方」も仕上がりに関わります──乳頭乳輪温存乳房切除術
再建の仕上がりは、乳房をどのように切除するかにも左右されます。全摘のなかには、皮膚や乳頭・乳輪をできるだけ残す方法があります。
なかでも「乳頭乳輪温存乳房切除術」は、乳がんの組織を取り除きながら、乳頭と乳輪、そして皮膚を残す方法です。ご自身の乳頭・乳輪と皮膚を活かせるため、再建したときに、より自然な見た目に近づけやすいという利点があります。
ただし、どなたにでもできるわけではありません。がんが乳頭や皮膚の近くにある場合には、安全のために乳頭や皮膚を残せないことがあります。しこりの位置や広がり、乳房の大きさや形などをふまえ、がんを確実に取りきることを最優先に、適応が判断されます。残した乳頭の血流が保てるか、感覚がどの程度戻るかにも個人差があります。
なお、皮膚は残すけれども乳頭は残さない「皮膚温存乳房切除術」という方法もあります。この場合、あとから乳頭・乳輪をつくる「乳頭再建」という選択肢をとることができます。
いつ・何回で再建する?──「一次・二次」と「一期・二期」

再建の進め方には、知っておくと理解しやすい2つの軸があります。ひとつは再建を始める「タイミング」、もうひとつは完成までの「手術の回数(段階)」です。
タイミング(いつ始めるか)は、乳房切除と同じ手術で再建を始める「一次再建(同時再建)」と、治療がひと段落してから始める「二次再建」に分かれます。段階(何回の手術で仕上げるか)は、1回の手術で仕上げる「一期再建」と、エキスパンダーで皮膚を伸ばしてから2回目でインプラントなどに入れ替える「二期再建」に分かれます。
この2つを組み合わせて、「一次一期」「一次二期」「二次一期」「二次二期」と表現します。
| 一期(1回で仕上げる) | 二期(エキスパンダー→入替の2段階) | |
|---|---|---|
| 一次(切除と同時) | 一次一期:全摘と同時に再建まで完成させる | 一次二期:全摘と同時にエキスパンダーを入れ、後日に入れ替える |
| 二次(治療後) | 二次一期:治療後に1回の手術で再建する | 二次二期:乳がん治療後にエキスパンダーの挿入から始めて、後日に入れ替える |
一次再建を選択すると、①手術や入院の回数を減らせる、②乳房の喪失感が少ない、というメリットがあります。一方で、①1回あたりの入院期間が長くなる、②術後の疼痛が切除のみに比べて強い、③出血・感染などの合併症の確率が上昇してしまう、というデメリットもありますので、自分が何に重きを置くかを検討するとよいでしょう。
ただし、がんの進み具合によっては、私は二次再建をお勧めしています。再建手術を行ったことが原因で合併症が生じた場合は、必要な抗がん剤治療などができない場合があります。そのため、治療の遅れが再発につながるような進んだ乳がんの患者さんには、まずは治療を一通り完了してから再建を検討するのが望ましいと考えるからです。
傷跡・費用・仕事復帰について
どの方法でも傷跡は残りますが、下着や水着で隠れる位置に配慮されることが多く、時間とともに目立ちにくくなっていきます。ただし、完全に元どおりの胸に戻るわけではない点は、心に留めておく必要があります。
費用については、乳がん術後の乳房再建は、インプラント・自家組織のいずれも、一定の条件のもとで健康保険が適用され、高額療養費制度の対象にもなります。自己負担の目安は方法や施設で異なるため、必ず事前に病院で確認しましょう。仕事復帰までの期間も術式によって差があり、とくに自家組織では療養が長めになる傾向があります。詳しくは乳がんの手術後、仕事復帰はいつから?で解説しています。
【専門医の視点】「正解」ではなく「納得」で選ぶ
外来で再建の相談を受けるとき、いちばん大切にしているのは「ご自身が納得して選べているか」です。仕上がりの満足度は、術式の種類そのものよりも、「自分の意思で選んだ」という実感に左右される傾向があります。家族や友人など、周りに勧められるまま受け身で決めてしまうと、あとで後悔につながることがあります。迷うときは、複数の選択肢について説明を聞いてから決めていただいて構いません。焦らず、ご自身のペースで考えていきましょう。
よくある質問(Q&A)
乳房再建は「する・しない」から自由に選べ、するとしても方法やタイミングに複数の選択肢があります。どれにも唯一の正解はなく、ご自身の体と生活、気持ちに合うものを、主治医や形成外科医と一緒に選んでいくことが大切です。
Q. 乳房再建をしない人はどのくらいいますか?
全摘を受けた方が全員再建するわけではなく、しない選択も珍しくありません。年齢や治療計画、価値観によって割合は変わります。大切なのは割合ではなく、ご自身が納得できるかどうかです。
Q. あとから再建することはできますか?
できます。一度「しない」を選んでも、術後に年数が経ってから再建することが可能です。まずは治療に専念し、落ち着いてから考えても遅くはありません。
Q. 再建して後悔しないためには、どうすればよいですか?
自分の希望で選んだと納得できているとき、満足度は高くなりやすいです。仕上がりには個人差があり、完全に元どおりにはならない点も理解したうえで、時間をかけて決めましょう。
Q. インプラントと自家組織、どちらがよいですか?
優劣ではなく相性です。自然さを優先するか、体への負担の少なさを優先するかなどで変わります。形成外科医に希望を伝えて相談してください。
Q. 乳頭や乳輪は残せますか?
がんが乳頭から離れているなど条件が合えば、乳頭・乳輪を残す「乳頭乳輪温存乳房切除術」ができる場合があります。ただしがんを確実に取りきることが最優先で、残せないこともあります。残せない場合も、あとから乳頭・乳輪をつくる方法があります。
Q. 再建に保険は使えますか?費用の目安は?
乳がん術後の再建は、条件を満たせばインプラント・自家組織のいずれも健康保険が適用され、高額療養費制度の対象にもなります。自己負担額は方法や施設で異なるため、事前に病院で確認しましょう。
Q. 入院期間はどのくらいですか?
方法とタイミングで異なり、インプラントは比較的短く、自家組織は長めになる傾向があります。具体的な期間は施設や回復の状況で差があるため、主治医にご確認ください。















