この記事の要点
- 乳がんの放射線治療とは:手術で残した乳房や胸壁に放射線を当てて再発を減らす治療で、放射線が当たった場所にだけ働きます。全身に影響が及ぶわけではありません
- 髪が抜ける、味覚が変わる、感染症に弱くなるといった変化は起こりません。これらは抗がん剤の副作用と混同されやすいところです
- 平日に毎日通いますが1回15分前後で終わるため、仕事を続けながら通う方が多くいます
- 皮膚の反応は最後の照射で終わりません。温泉や日焼け対策は治療後しばらくの時間差を見込んで予定を立てると安心です
放射線治療と聞くと、抗がん剤のようなつらい副作用を思い浮かべる方が少なくありません。しかし実際には、乳がんの放射線治療で日常生活に加わる制限はとても少ないです。仕事を続けながら通う方も多く、食事もふだんどおりで構いません。
不安が実際以上に大きくなりやすいのは、抗がん剤の副作用と混同されているためです。まず「起こらないこと」から整理していきます。
放射線治療で「起こらないこと」──抗がん剤と混同しないために
放射線は、当たった場所にだけ働きます。乳房や胸壁に照射しても、体全体に影響が及ぶわけではありません。ここを取り違えると、必要のない心配を抱えることになります。
髪は抜けません。 放射線による脱毛は、放射線が当たった部分にだけ起こります。乳房や胸壁への照射で頭髪が抜けることはありません。抗がん剤治療を並行している場合の脱毛は、抗がん剤によるものです。
味覚障害も起こりません。 味覚の変化は、抗がん剤治療でよくみられる副作用です。乳房への放射線では味覚を司る部分に放射線が当たらないため、原因になりません。
吐き気は、まず起こりません。 「放射線宿酔」と呼ばれる、だるさや吐き気が出ることはありますが、これは主にお腹や脳など広い範囲・別の部位に照射する場合の話です。乳房への照射で強い吐き気が出ることはないと考えて良いです。
感染症に弱くなることもありません。 白血球が減って感染しやすくなるのは抗がん剤治療の特徴です。乳房への照射では、通常そこまでの変化は起こりません。

一方で、実際に起こりやすいのは次の2つです。ひとつは照射した部分の皮膚の変化(赤み、乾燥、かゆみ、色素沈着)で、もうひとつはだるさです。だるさは治療の後半にかけて感じる方が多く、治療が終われば少しずつ戻っていきます。
皮膚の変化は、いつ何が起きて何をすればよいかを時系列で知っておくと、ずいぶん気持ちが楽になります。
皮膚の変化にそなえて乳房温存手術後の放射線治療──皮膚ケアの「いつ・何を・どうするか」を知っておきましょう→放射線治療中の暮らしで変わること・変わらないこと
治療中も、暮らしの大部分はこれまでどおりです。制限が集中するのは「照射した皮膚をいたわる」という一点で、それ以外は大きく変わりません。
ふだんどおりで構わないこと
- 入浴・シャワー、洗髪、着替え、家事
- 食事。特別な制限はありません
- 散歩やストレッチなどの運動
- 仕事(後述します)
「治療中はおとなしく寝ていたほうがいいのでは」と考える方がいますが、そうではありません。体を動かすことは、だるさをやわらげることにもつながります。
治療中に気をつけたいこと
- 位置合わせのしるし(マーキング)を、自分で意図的に消さないこと
- 治療中の喫煙は、照射した部分の皮膚の反応が強く出やすくなることが、複数の研究で示されています。円滑な治療の遂行のために、可能であれば禁煙をお勧めします
- 照射部位へのエステ・マッサージ・脱毛は、皮膚が落ち着くまで控えること(照射部位以外であれば問題ありません)
照射した皮膚のケア——洗い方や湯温、下着の選び方、保湿剤を塗るタイミング、市販クリームの可否、避けたい刺激——は、治療中にいちばん迷うところです。時期ごとの具体的な方法は、上の皮膚ケアの記事にまとめています。
最後の照射で「終わり」ではありません──温泉・日焼け・お酒
生活のことで質問が多いのが、温泉・日焼け・お酒の3つです。知っておいていただきたいのは、皮膚の反応は治療が終わった直後がピークではないということです。放射線照射の効力は最後の照射から2週間〜1か月程度持続すると考えられています。そのため、いずれも「治療が終わったその日から元どおり」とはいかない点が共通しています。
また、皮膚の反応はむしろ治療を終えたあとに強まることがあります。この時間差を見込んでおくことで、思わぬ不便を避けられます。

温泉・銭湯・プールはいつから
自宅の入浴は治療中も可能です。一方、公衆浴場や温泉、プールは、皮膚の反応が落ち着いてからになります。再開してよい時期は皮膚の状態によって決まるため、判断の目安は皮膚ケアの記事にまとめていますのでご覧ください。
日焼け対策は必要か
放射線が当たった部分の皮膚は、日焼けの影響を受けやすい状態がしばらく続きます。治療によって皮膚の再生する力が一時的に落ちているところに紫外線が加わるため、色素沈着が濃くなったり、戻りにくくなったりすることがあります。
治療中に日焼け止めを使う場合、厚く盛るように塗ると皮膚表面の線量が増えることがわかっています。塗る量と、照射前に塗ってよいかについては施設ごとに方針が異なるため、放射線治療のスタッフに確認しておくと安心です。
治療後にどれくらいの期間、紫外線対策を続けるとよいか、また日焼け止めの選び方や色素沈着が薄れていく経過については、皮膚ケアの記事にまとめています。
お酒は飲んでいいか
近年の研究では、放射線治療中に飲酒していた方で治療後の経過が良くなかったとする報告がありますので、治療中は控えめにしておくのが安心です。ただし、乳がんに限った検討ではなく、確定した結論ではありませんので、禁酒を強要するものではありません。
放射線治療中も仕事は続けられます──通院の実際

放射線治療は、平日に毎日病院へ通うという点が生活への一番の影響になります。月曜から金曜まで週5日、土日は休みというスケジュールが基本です。
ただし、1回あたりの拘束時間は長くありません。着替えと位置合わせを含めて15分前後、実際に放射線が出ている時間は1〜2分です。
そのため、仕事を続けながら通う方は多くいます。 朝いちばんや夕方の枠を確保して出勤前後に通う、昼休みに通う、といった調整をされる方が一般的です。予約の時間帯は相談できることが多いので、勤務時間を伝えたうえで放射線科に相談してみてください。
一方で、休職や時短勤務を検討したほうがよいのは次のような場合です。
- 治療施設が遠く、往復に時間がかかる
- 立ち仕事や力仕事で、だるさが業務に影響する
- 抗がん剤治療から続けての放射線治療で、体力が戻りきっていない
だるさは治療の後半にかけて出やすいため、「最初の1週間は大丈夫だったから最後までいける」とは限りません。無理のない範囲で調整してください。
休職の手続きや傷病手当金、職場への伝え方については、別の記事で詳しく解説しています。
職場に戻る準備をはじめたら乳がん治療後の復職チェックリスト── スムーズに職場に戻るために→乳がんの放射線治療は何回・何週間かかる?──回数とスケジュール
乳房温存手術後の放射線治療は、現在の日本では次のいずれかが標準です。
| 方法 | 回数 | 期間 |
|---|---|---|
| 寡分割照射 | 16回程度 | 約3週間 |
| 通常分割照射 | 25回程度 | 約5週間 |
| ブースト照射 | 4〜5回の追加 | 約1週間延長 |
検索していると「16回のデメリット」「25回のデメリット」といった言葉を目にすることがあります。ここは誤解されやすいところなのですが、回数が少ないほうが劣る、あるいは手抜きということはありません。 1回あたりの線量を調整して、全体として同等の効果が得られるように設計されています。どちらを選ぶかは、がんの状況や照射する範囲、心臓や肺との位置関係などから判断されます。

照射回数をさらに減らす研究も進んでいます。英国のFAST-Forward試験では、5回(約1週間)の照射が従来の3週間法に対して局所制御で劣らないと報告され、長期の追跡結果も公表されています。ただしこれは海外での知見であり、日本では現在も16回または25回が標準です。 国内でどう位置づけられるかは、これからの検討課題という段階にあります。
ブースト(追加照射)は、手術の結果、非浸潤癌が残存している可能性がある場合など、再発リスクが高いと判断される場合に加えられます。
治療を始める時期は、手術のあと、傷の回復を待ってからになります。目安としては術後4〜6週間程度ではじめることが多いでしょう。抗がん剤治療を行う場合は、そちらが終わってから始めるのが一般的です。
費用は健康保険が適用されます。総額としては高額になりますが、高額療養費制度を利用することで自己負担には上限が設けられます。手続きは加入している健康保険組合や自治体の窓口で確認できます。
放射線治療が終わったあとに残る変化
照射した部分には、治療後もしばらく変化が残ります。色素沈着(日焼けのあとのような黒ずみ)や、皮膚が少し硬く感じられることが代表的で、多くは時間とともに落ち着いていきます。経過の目安とケアの方法は、皮膚ケアの記事で解説しています。
硬さについて「しこりができたのでは」と心配される方がいますが、照射後の組織の変化であることがほとんどです。1年近くかけて段々と柔らかい、もとの手触りにもどるのが通常の経過ですので、心配しないでください。
肩や腕の動かしにくさ:手術の影響と重なることがあります。動かさずにいると硬くなりやすいため、無理のない範囲で動かし続けることが大切です。
肩と腕の動きが気になったら乳がん手術のあとのリハビリ ── 肩と腕を自分の力で取り戻すために→長引く痛みやしびれについては、別の記事で扱っています。
痛みやしびれが長引くとき乳がん手術後の痛み・しびれはいつまで続く?──長引く痛みの正体と対処法を専門医が解説→放射線治療後、次のような場合は病院を受診してください
- 皮膚がじくじくして浸出液が出る、範囲が広がる
- 痛みや赤みが強くなる、熱を持つ
- 発熱を伴う
- 息切れや、乾いた咳が続く
- 腕のむくみが出てきた、または強くなった
乳がんの放射線治療についてよくある質問
Q. 乳がんの放射線治療で髪は抜けますか?
A. 抜けません。放射線による脱毛は放射線が当たった部分にだけ起こるため、乳房や胸壁への照射で頭髪が抜けることはありません。抗がん剤治療を並行している場合の脱毛は、抗がん剤によるものです。
Q. 放射線治療中も仕事は続けられますか?
A. 多くの方が続けています。平日に毎日通いますが、1回あたりの拘束時間は着替えと位置合わせを含めて15分前後です。朝いちばんや夕方の枠を確保して出勤前後に通う方が一般的で、予約の時間帯は相談できることが多いため、勤務時間を伝えて放射線科にご相談ください。
Q. 乳がんの放射線治療は何回・何週間かかりますか?
A. 日本では寡分割照射で16回程度(約3週間)、通常分割照射で25回程度(約5週間)が標準です。がんがあった場所に追加で当てるブースト照射を加える場合は、4〜5回・約1週間延長されます。回数が少ないほうが効果で劣るということはありません。
Q. 放射線治療のあと、温泉やプールにはいつから入れますか?
A. 自宅の入浴は治療中も可能ですが、公衆浴場や温泉、プールは皮膚の反応が落ち着いてからになります。皮膚の反応は最後の照射で終わらず、治療を終えたあとに強まることがあるため、時間差を見込んで予定を立ててください。
Q. 放射線治療中にお酒を飲んでもいいですか?
A. 近年の研究では、放射線治療中に飲酒していた方で治療後の経過が良くなかったとする報告があるため、治療中は控えめにしておくのが安心です。ただし乳がんに限った検討ではなく確定した結論ではないため、禁酒を強要するものではありません。
まとめ
乳がんの放射線治療で加わる制限は、思われているほど多くありません。髪は抜けず、味覚も変わらず、食事の制限もなく、仕事を続けながら通う方も多くいます。気をつけるのは、照射した皮膚に余計な刺激を加えないこと。そして、最後の照射を終えてもしばらくは反応が続くことを見込んで予定を立てることです。
温泉や日焼け対策を再開する時期に一律の正解はなく、皮膚の状態によって変わります。判断に迷ったときは、次の受診のときに遠慮なく確認してください。
- 日本乳癌学会『患者さんのための乳がん診療ガイドライン2023年版』 jbcs.xsrv.jp
- 国立がん研究センター がん情報サービス「乳がん 治療」 ganjoho.jp
※ 本記事は上記の公的機関・学会等の情報をもとに、慶應義塾大学医学部 乳腺外科 林田哲 教授が監修しています。最終確認:2026-08-18













