乳がん手術後の痛み・しびれはいつまで続く?──長引く痛みの正体と対処法を専門医が解説

この記事の要点

  • 乳房切除後疼痛症候群(PMPS)とは:乳がん手術後3か月を超えて続く痛み・しびれのことで、手術を受けた方のおおむね2〜3割に起こります。温存手術の後にも起こります
  • 長引く痛みの多くは手術で影響を受けた神経由来で、再発のサインではないことがほとんどです
  • むくみ・つっぱり感・皮膚のヒリヒリなど、原因が異なる似た症状との見分けが大切です
  • 我慢するものではなく、神経の痛みに合った薬や治療で調整できる可能性があります

手術は無事に終わった。傷もきれいに治った。それなのに、脇の下から二の腕にかけてのしびれや、胸の締めつけられるような痛みが何か月も続く──症状が軽いものまで含めると、乳がんの手術を受けた方のほぼ全員からご不安の声を聞く訴えです。結論から言えば、これは「気のせい」でも「治りが悪い」わけでもなく、名前のついた、対処法のある症状です。この記事では、その正体と付き合い方を整理します。

目次

手術後の痛み、いつまで続くのが「普通」?

手術直後は皮膚の感覚が麻痺しているため、傷そのものの痛みは意外なほど感じないか、感じても強くないことがほとんどです。術後1〜2週間ほどして感覚が戻ってくると、今度は痛みを少しずつ感じるようになりますが、これも多くの場合、1〜2か月もすれば日常で創部の痛みを意識することは少なくなっていきます。

一方で、それとは別の種類の痛みがあります。手術から3か月を過ぎても続く、脇の下や上腕の内側のしびれ、ピリピリ・チクチクする感覚、胸が締めつけられるような違和感です。創部の痛みが「治っていく痛み」であるのに対し、こちらは性質の違う痛みで、本記事の主題はこの「長引く痛み」のほうです。

「痛みが続く=再発?」の不安に答える

長引く痛みで受診される方が本当に心配しているのは、痛みそのものよりも「再発ではないか」という不安であることがほとんどです。

まずお伝えしたいのは、手術後に長く続く痛み・しびれの大半は、後述する神経由来の痛みであり、再発のサインではないということです。神経由来の痛みには、ピリピリ・ジンジンという電気的な感覚、触れると過敏に感じる、日によって波がある、といった特徴があります。

ただし、次のような場合は自己判断せず、予定を待たずに受診してください。

  • 胸壁や傷あとの周囲に新しいしこりを触れる
  • 痛みが一点に集中して、週単位でどんどん強くなる
  • 皮膚の発赤・熱感・腫れを伴う(感染などの可能性)

「大半は心配いらない・ただしこのサインは受診」──この2つをセットで覚えておくことが、不安と付き合ういちばんの近道です。

長引く痛みの正体──乳房切除後疼痛症候群(PMPS)

手術後3か月を超えて続く痛みには、乳房切除後疼痛症候群(にゅうぼうせつじょごとうつうしょうこうぐん、PMPS: Post-Mastectomy Pain Syndrome)という名前がついています。「乳房切除後」という名前ですが、温存手術の後にも起こりますので、注意が必要です。

原因の中心は、手術の際に避けることが難しい、眼に見えないほど細い神経の損傷です。神経が傷ついたり引き伸ばされたりすると、その神経が担当していた領域に、しびれ、感覚の鈍さ、ピリピリした痛みが残ることがあります。これは「神経障害性疼痛」と呼ばれる痛みで、切り傷の痛みとはメカニズムが異なります。

どのくらいの人に起こるかは報告により幅がありますが、手術を受けた方のおおむね2〜3割と報告されており、決してまれな症状ではありません。痛みまではいかなくても、感覚がにぶい、チクチクする、などの症状を訴える患者さんを外来で拝見することは頻繁にあります。特に腋窩手術の際は肋間上腕神経に障害を認めることが多く、上腕の内側にしびれ・痛みを感じる場合があります。多くは時間の経過とともに少しずつ軽くなっていきますが、経過には個人差があり、年単位で付き合う方もいます。

なりやすい条件と、似た症状との見分け方

PMPSが起こりやすいとされる条件には、腋窩リンパ節郭清を受けた放射線治療を併用した若年である手術前から痛みが強かったなどがあります。当てはまるから必ず起こるわけではなく、リスクの目安と考えてください。

また、手術後の腕や胸の症状には、原因の異なる「似たもの」がいくつかあります。対処法が違うため、見分けの入口を整理しておきます。

  • 腕全体のむくみ・重だるさ → リンパ浮腫の可能性。痛みよりも「むくみ」が主役の場合はこちらです(詳しくはリンパ浮腫の記事へ)
  • 手術直後に前胸部や脇の創部あたりに液体がたまる → セローマと呼ばれる別の現象です(同記事内で解説)
  • 腕を上げたときのつっぱり・動かしにくさ → 術後の可動域の問題で、リハビリで改善が期待できます(リハビリの進め方の記事へ)
  • 皮膚表面のヒリヒリ感・乾燥を伴う痛み → 温存手術で放射線治療を受けた方では、照射後長期にわたって皮膚の乾燥やバリア機能の低下が続き、それが痛みやヒリヒリ感の原因になることがあります。神経の痛みではなく「皮膚の痛み」で、保湿を中心としたスキンケアで対処します(詳しくは放射線治療の皮膚ケアの記事へ)
  • 手術創部周囲や、脇〜二の腕のしびれ・ピリピリした痛み → 本記事のPMPSが最も考えやすい症状です
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日常でできる対処と、医療で受けられる治療

日常でできることの基本は、痛みが強くならない程度に体を動かし続けることです。肩や腕を無理のない範囲で使い、蒸しタオルなどで温めると楽になる方が多くいます。逆に、痛む側をかばって完全に使わないでいると、肩の拘縮や痛みの慢性化につながりやすくなります。

そのうえで、生活に支障がある痛みは外来で伝えてください。神経障害性疼痛には、通常の鎮痛薬とは別系統の、神経の痛みに合った薬があります。また施設によっては、ペインクリニックや緩和ケアチームと連携した対応も可能です。慶應義塾大学病院では、麻酔科を中心としたペインクリニックの医師に治療を行っていただき、軽快した患者様が何人もいらっしゃいます。伝えるときは「いつから・どこが・どんな感じで・何をすると強いか」をメモしていくと、診察がスムーズです。

痛みを我慢することは、治療の頑張りとは関係ありません。眠れない、服が擦れるのがつらい、そうした痛みは調整できる可能性のある症状です。

よくある質問(FAQ)

Q. 手術から1年経っても痛みやしびれがあるのは異常ですか?
異常ではありません。神経由来の痛みは年単位で続くことがあり、1年以上たってから少しずつ軽くなる方もいます。ただし、痛みの性質が変わった・急に強くなった場合は、次の外来を待たずに相談してください。

Q. 脇の下のしびれは治りますか?
多くの場合、時間とともに軽くなるか、気にならない程度に落ち着いていきます。神経の回復はゆっくりで、月から年の単位で変化します。完全に元どおりにならなくても、対処法で生活への影響を小さくすることができます。

Q. 痛み止め(ロキソプロフェンなど)が効かないのはなぜですか?
神経障害性疼痛は、炎症の痛みに効く一般的な鎮痛薬が効きにくいタイプの痛みだからです。神経の痛みに合った別系統の薬があるので、「痛み止めが効かない」こと自体を主治医に伝えてください。

Q. 手術後の痛み止めは、いつまで飲み続けてよいのですか?
創部の痛みに対する痛み止めは、多くの場合、術後数週間のうちに必要なくなっていきます。それを過ぎても痛み止めが手放せない場合は、薬が合っていないか、神経由来の痛みに移行している可能性があります。市販薬を自己判断で長く飲み続けると胃や腎臓に負担がかかることもあるため、「まだ痛み止めが必要な状態」であること自体を主治医に伝え、薬の種類や続け方を相談してください。

Q. 運動して痛みが悪化しませんか?
痛みの範囲内の運動で神経の痛みが悪化することは基本的に考えにくく、むしろ動かさないことのほうが長期的にはマイナスに働きます。急に強い負荷をかけるのではなく、無理のない範囲から段階的に。何をどこまでやってよいかは、リハビリの記事も参考にしてください。


手術後の長引く痛みは、名前のある、対処法のある症状です。「手術が終わったのだから我慢するもの」と一人で抱えず、外来で言葉にしてみてください。それは主治医にとっても大切な情報です。

参考文献・出典
  1. 日本乳癌学会『患者さんのための乳がん診療ガイドライン2023年版』 jbcs.xsrv.jp
  2. 国立がん研究センター がん情報サービス「乳がん 治療」 ganjoho.jp

※ 本記事は上記の公的機関・学会等の情報をもとに、慶應義塾大学医学部 乳腺外科 林田哲 教授が監修しています。最終確認:2026-07-22

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