ルミナルタイプ乳がん、よくある5つの疑問──薬の選び方・治療期間・CDK4/6阻害薬まで

乳がんサブタイプ別の最新治療 〜 初期治療編

 

 

ここまで、ルミナルタイプER陽性でHER2陰性の乳がんの分類名です。乳がんの約70%を占める最も多いタイプで、ホルモン療法が主な治療となります。の診断から化学療法抗がん剤を使ってがん細胞の増殖を抑える治療です。すべての患者さんに必要とは限らず、再発リスクに応じて判断されます。の必要性を判断するまでの流れをお伝えしてきました。治療方針が決定したら、いよいよ実際のホルモン療法女性ホルモンのエストロゲンがんの増殖を抑える治療法です。5~10年という長期間にわたって続けられることが多いです。がスタートします。ホルモン療法は長期間続く治療ですので、自分の体の状態に合った薬選びが、治療の成功と生活の質を左右する重要なポイントとなります。

ホルモン療法の薬の選び方

ホルモン療法に使われる薬は、患者さんの閉経女性の月経が終わり、卵巣からのエストロゲン分泌がなくなる時期です。ホルモン療法に使う薬の選択が閉経の前後で変わります。状態によって異なります。これは、閉経前と閉経後ではエストロゲン女性ホルモンの一種です。ER陽性のがん細胞はこのホルモンを栄養源として増殖するため、ホルモン療法でこの作用をブロックします。が体内で作られる仕組みが違うためです。

閉経前の方の場合

閉経前の女性では、エストロゲンは主に卵巣で作られています。このため、閉経前の方には「タモキシフェン閉経前の患者さんに使われるホルモン療法の薬です。がん細胞がエストロゲンを受け取るのをブロックする働きをします。」という薬が第一選択として用いられます。タモキシフェンは、がん細胞のエストロゲン受容体がん細胞の表面にあるエストロゲンを受け取る装置のようなものです。ホルモン療法はこの受容体をブロックすることでがんの増殖を抑えます。に先回りして結合し、エストロゲンが受容体にくっつくのをブロックする薬です。いわば、受容体という「鍵穴」にダミーの「鍵」を差し込んで、本物のエストロゲンが入れないようにする仕組みです。

若年(35歳以下)の患者さんや、再発リスクが高い閉経前の患者さんでは、タモキシフェンに加えて「LH-RHアゴニスト卵巣からのエストロゲン分泌そのものを抑制する注射薬です。タモキシフェンと一緒に使うことで、より強くエストロゲンの影響を抑えられます。」と呼ばれる注射薬を併用することがあります。LH-RHアゴニストは卵巣からのエストロゲン分泌そのものを抑制する薬で、タモキシフェンとの併用でより強力にエストロゲンの影響を抑えることができます。リュープロレリンLH-RHアゴニストの一種で、月1回または数カ月ごとの皮下注射で卵巣からのホルモン分泌を抑える薬です。ゴセレリンLH-RHアゴニストの一種で、リュープロレリンと同じく注射で卵巣からのホルモン分泌を抑える薬です。といった薬がこれに該当し、月に1回または3か月に1回や6ヶ月に1回の皮下注射で投与されます。

閉経後の方の場合

閉経後は卵巣からのエストロゲン産生がなくなりますが、アンドロゲン男性ホルモンの一種です。閉経後、この物質が脂肪組織でエストロゲンに変換されることが、ER陽性がんの増殖につながります。という男性ホルモンが、脂肪組織などに存在する「アロマターゼ閉経後の女性の体でアンドロゲンをエストロゲンに変える酵素です。この酵素の働きを止めることがホルモン療法の狙いです。」という酵素の働きによってエストロゲンに変換されます。閉経後のわずかなエストロゲンも、ER陽性がん細胞の表面にエストロゲン受容体という物質があるタイプのがんです。エストロゲンというホルモンに反応して増殖するため、ホルモン療法が効果的です。のがん細胞にとっては増殖の燃料になりうるのです。

そこで閉経後の方には、このアロマターゼの働きを阻害する「アロマターゼ阻害薬閉経後の患者さんに使われるホルモン療法の薬です。アロマターゼという酵素の働きをブロックして、体内のエストロゲン量を減らします。(AI)」が使われます。レトロゾールアロマターゼ阻害薬の一種です。1日1回の内服薬で、閉経後の患者さんに使われます。アナストロゾールアロマターゼ阻害薬の一種です。1日1回の内服薬で、閉経後の患者さんに使われます。エキセメスタンアロマターゼ阻害薬の一種です。1日1回の内服薬で、閉経後の患者さんに使われます。の3種類が代表的な薬剤で、いずれも1日1回の内服です。臨床試験の結果、閉経後の患者さんではタモキシフェンよりもアロマターゼ阻害薬の方が再発抑制効果に優れることが示されています。

ホルモン治療の「エクステンドホルモン療法の期間を延長することです。タモキシフェン5年の後にアロマターゼ阻害薬を5年追加し、合計10年間の治療を行うことを指します。(延長療法)」の考え方

閉経前でタモキシフェンを服用し始めた方が、治療中に閉経を迎えることは珍しくありません。そのような場合、タモキシフェンを5年間内服した後に、アロマターゼ阻害薬に切り替えて、合計10年内服する「エクステンド」が検討されることがあります。これはいくつかの臨床試験の結果から、このエクステンドを行うことで、さらに再発率を減少させることが明らかになっているからですエクステンドが必要かどうかは、再発リスクや副作用の状況を踏まえて個別に判断することが多いので、主治医と相談しつつ、ご自身の希望をはっきりお話することが良いと考えます。

タモキシフェンの副作用や日常生活での工夫については、「タモキシフェンの副作用と上手に付き合うために」の記事で詳しくお伝えしていますので、参考にしてください。

👉抗がん剤が必要か迷ったらルミナル乳がんに抗がん剤は本当に必要?Oncotype DXの答え

よくある疑問にお答えします

外来で患者さんからよくいただく質問をまとめてみました。ここに挙げた内容はあくまで一般的なお話ですので、ご自身のケースについては必ず担当の主治医にご相談ください。

「ルミナルタイプはおとなしいがんだから安心していい?」

「ルミナルタイプは予後治療を受けた後の経過や、将来の見通しのことです。がんの種類やステージによって予後は大きく異なります。が良いタイプ」という情報をインターネットで目にされて、安心される方は多いです。確かに、HER2陽性HER2というたんぱく質が多く発現しているがんです。ER陽性/HER2陰性と比べて、より攻撃的な性質を持つことが多いです。トリプルネガティブER陰性、PR陰性、HER2陰性の3つすべてが陰性のがんです。ルミナルタイプとは異なり、ホルモン療法が効きにくいタイプです。と比較すると、全体としての予後は良好な傾向があります。しかし、「おとなしい=再発しない」ということではありません。ルミナルタイプの特徴として、手術後5年以上経ってから再発することがある点が挙げられます。これは他のサブタイプではあまり見られない現象で、「晩期再発ルミナルタイプのがんで、手術から5年以上経った後に再発することです。治療を終えても長期的に注意が必要な理由です。」と呼ばれています。だからこそ、ホルモン療法を長期間継続することに意味があり、治療終了後も定期的なフォローアップが重要です。「おとなしいからけれど、長く注意が必要」なタイプとも言えます。

「化学療法は絶対に必要ですか?」

これは最も多い質問の一つです。結論から言うと、ルミナルタイプでは化学療法が不要なケースがかなりあります。特にルミナルA型ルミナルタイプのがんのなかでもより低リスクな分類です。通常、ホルモン療法だけで十分な治療効果が期待できることが多いです。に分類される場合や、Oncotype DXがん細胞の遺伝子を調べて、再発リスクを数値化する検査です。化学療法が本当に必要かどうかを判断するのに役立ちます。再発スコアOncotype DX検査で計算された、再発のリスクを示す数値です。スコアが高いほど再発リスクが高いことを意味します。が低い場合には、ホルモン療法単独で十分な治療効果が期待できることが臨床試験で証明されています。一方で、リンパ節転移がん細胞がリンパ管を通じてリンパ節に広がっている状態です。転移がある場合は化学療法の追加を検討する理由になります。が多い場合や再発スコアが高い場合には、化学療法の追加によって再発率を有意に下げることができます。「化学療法をやるかやらないか」は白か黒かの話ではなく、さまざまな情報を総合して判断するグラデーションのある議論です。遺伝子検査などのツールを活用しながら、主治医と一緒に考えていきましょう。場合によってはセカンドオピニオン治療方針についての判断を確認するため、別の医師に意見を求めることです。治療選択で迷ったときに活用できます。で他施設医師の意見を聞くのも良いかもしれません。

「ホルモン療法の副作用がつらいときはどうすればいい?」

ホルモン療法は長期間続く治療ですから、副作用との付き合い方は大きなテーマです。タモキシフェンではホットフラッシュ顔がほてったり急に汗をかいたりする症状です。タモキシフェンの副作用として現れることがあります。(ほてり)、体重増加、気分の変動などが代表的な副作用です。アロマターゼ阻害薬では関節痛やこわばり、骨密度の低下骨が弱くなって、骨粗鬆症になりやすくなる状態です。アロマターゼ阻害薬の長期使用で起こる可能性があります。が問題になることがあります。こうした副作用がつらい場合、「我慢するしかない」と思い込まないでいただきたいのです。実は、薬の種類を変更することで症状が軽減する場合があります。たとえば、あるアロマターゼ阻害薬で関節痛がひどい方が、別のアロマターゼ阻害薬に変えたら症状が和らいだという経験は少なくありません。また、副作用に対する対症療法病気そのものを治す治療ではなく、症状を緩和する治療です。例えば、ホルモン療法の副作用を和らげるための薬などが当たります。(関節痛に対する鎮痛薬や、骨密度低下に対するビスホスホネート製剤骨密度の低下を防ぐ薬です。アロマターゼ阻害薬による骨がもろくなることに対する対症療法として使われます。など)を併用することもできます。つらい症状があるときは、我慢せずに主治医に伝えてください。治療を中断してしまうよりも、薬を調整しながら続けることの方がはるかに重要です。

「ホルモン療法は5年で終わる? 10年続ける?」

ホルモン療法の標準的な期間は5年間ですが、近年の研究では、リスクが高い患者さんでは10年間に延長することで再発率をさらに下げられることが示されています。前述したタモキシフェン5年内服からのAIに変更する「エクステンド」も同様の考え方ですね。リンパ節転移があった方、腫瘍が大きかった方、若年で発症した方などが延長治療の対象になりやすいです。一方で、治療期間が延びるほど副作用を感じる期間も長くなりますし、骨粗鬆症のリスクも蓄積します。「延長することのメリット」と「延長によるデメリット」を天秤にかけて、個別に判断していくことになります。5年の治療が終わりに近づいたタイミングで、改めて主治医と今後の方針について話し合うことをお勧めします。

CDK4/6阻害薬がん細胞の増殖サイクルを止める新しいタイプの薬です。ホルモン療法と組み合わせることで、再発リスクが高い患者さんの治療効果を高めます。って何ですか?」

最近の外来では、「CDK4/6阻害薬(シーディーケーフォーシックスそがいやく)について聞いたのですが」とおっしゃる方が増えてきました。CDK4/6阻害薬とは、がん細胞の増殖サイクルを止める作用を持つ新しいタイプの薬で、アベマシクリブCDK4/6阻害薬の一種で、商品名はベージニオです。術後補助療法として、ホルモン療法と一緒に使われる新しい治療薬です。(商品名ベージニオ)やパルボシクリブCDK4/6阻害薬の一種で、商品名はイブランスです。アベマシクリブと同じタイプの働きをする薬です。(商品名イブランス)が含まれます。もともとは転移・再発乳がんの治療薬として登場しましたが、最近ではアベマシクリブが術後補助療法手術の後に、再発や転移を防ぐために行う追加の治療です。化学療法やホルモン療法がこれに該当します。としても承認され、再発リスクが高いER陽性/HER2陰性HER2というたんぱく質が少ないがんという意味です。HER2が多いがんに比べて、治療の選択肢が異なります。の早期乳がんに対して、ホルモン療法と併用する形で使われるようになっています。monarchE試験アベマシクリブがホルモン療法と一緒に使われると、再発リスクが有意に低下することを示した大規模な臨床試験です。という大規模試験では、ホルモン療法にアベマシクリブを2年間併用することで、再発リスクが有意に低下したことが報告されています。ただし、下痢などの副作用もありますので、すべての患者さんに推奨されるわけではなく、再発リスクの程度に応じて慎重に適応が判断されます。

まとめ

ER陽性/HER2陰性、いわゆるルミナルタイプの乳がんは、乳がん全体の約70%を占める最多のサブタイプです。がん細胞がエストロゲンに依存して増殖するという「弱点」が明確であり、ホルモン療法という長い歴史と豊富なエビデンスに裏打ちされた治療法を軸に据えることができます。ルミナルA型とルミナルB型ルミナルタイプのなかでもより高リスクな分類です。ホルモン療法に加えて化学療法が必要になることがあります。の違いを知ることで、化学療法の必要性についてより具体的に考えることができますし、Oncotype DXなどの遺伝子検査を活用すれば、科学的なデータに基づいて「自分に本当に必要な治療」を絞り込むことが可能になっています。

ホルモン療法は5年から10年にわたる長期の治療であり、その間に副作用や生活上のさまざまな問題が生じることは避けられません。しかし、薬の種類を変更したり、対症療法を組み合わせたりと、対処法は複数存在します。副作用を理由に自己判断で治療を中断してしまうことは、再発リスクの上昇に直結しますので、困ったことがあればまず主治医に相談してください。

ルミナルタイプの最大の特徴は、治療の選択肢が多いということです。手術の方法、化学療法の要否、ホルモン療法の種類と期間、CDK4/6阻害薬の追加など、複数の選択肢を組み合わせて一人ひとりに最適な治療を設計できる時代になっています。主治医と十分に対話しながら、ご自身の治療方針を理解し納得して進めていただくことが、長い治療期間を乗り越えるうえでの基盤になります。

さらに詳しい情報をお知りになりたい方は、当サイトの「術後内分泌治療ってどんな治療?」「タモキシフェンの副作用と上手に付き合うために」「治療中の食事で気をつけたいこと」などの記事も、あわせてお読みいただければ理解が深まるはずです。

※ 本記事は情報提供を目的としており、医療行為の代替となるものではありません。症状がある場合は必ず医療機関を受診してください。
参考文献・出典
  1. 日本乳癌学会『患者さんのための乳がん診療ガイドライン2023年版』 jbcs.xsrv.jp
  2. 国立がん研究センター がん情報サービス「乳がん 治療」 ganjoho.jp
  3. 国立がん研究センター がん情報サービス「薬物療法」 ganjoho.jp

※ 本記事は上記の公的機関・学会等の情報をもとに、慶應義塾大学医学部 乳腺外科 林田哲 教授が監修しています。最終確認:2026-06-04

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